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[コメント] アルタード・ステーツ 未知への挑戦(1979/米)

密閉された水槽に人影が怪しく浮かぶオープニングは期待を持たせる。しかし、振り返るにはあまりに遠すぎる「いつか来た道」。(2011.12.22)
HW

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 家の壁を叩きまくったら打ち勝てる・・・じゃなかった、「愛」が打ち勝てる程度の虚無しか見れなかったのか、と落胆する。原始人になって無邪気に興奮してたかと思えば、宇宙の始まりに「無」を見て怯える。壮大なことを口にしているわりに、なんだか小さい。

 ひねくれた見方をすると、案外、『裏窓』的な物語というか、金髪美女から「家庭を持ちましょう」と積極的なアプローチを受けているのに、来るべき落ち着いた生活を受け入れられずに、冒険やスリルを求めてしまう男、というそれだけの話と思えなくもない。裏窓で満足できなかったのは、住宅事情に因るのだろう。

 そう思ってみると、「いったんは結婚してみたけれど・・・」という展開が冗長に映る。アイソレーション・タンクとキノコの夢の出会いを演出するために、研究中断期間が劇中に必要だったのかもしれないが、子どものいる別居夫婦という役柄を割り当てたにしては、恋人関係のときと二人の印象がさして変わらない(そもそも子どもの存在感が一貫して薄い)。二人のあいだの葛藤も絆もいまいち掘り下げられないままなので、「愛」の急浮上はまったく取ってつけたよう。「別れてから他の男とも寝たけれど、やっぱり彼のことしか考えられないのよっ!」などという頼んでもいないヒロインの告白を真面目に受け取るならば、案外、単なるセックスの相性をめぐる物語だったのだろうか。類人猿に戻るまでもない。

 未知なる変容を抱え込んでしまった恋人、という後の『ザ・フライ』にも通ずるような展開だが、肉体的変化まで起こっているわりに、得体の知れない戦慄のようなものは思いのほか乏しいのが残念。警備員さんとかくれんぼとか野良犬とケンカとかといった原始人パート、もっと短くていい、というか、いらない。

 「羊の血を飲んだぞ!」とか太古の記憶(のわりには、妙に宗教がかって聞こえるが・・・)が中盤まで長々と取り上げられているのは実際どこかミスリーディングで、映画のクライマックスは、個体のなかに奥深く眠る、いわば「宇宙の記憶」へと向かう。『2001年宇宙の旅』の子どもたちにして『AKIRA』のお兄さん映画である。ただし、大学研究室と恋人関係のスケールを出ないのがこの映画のあくまで小ぢんまりとしたところ。

 その意味では、本作を少なからず意識していたらしい『エンター・ザ・ボイド』が、いささか古典的にも思えるかたちで「個人の記憶」にのみ執着しつつ、「都市」を縦横に描き、未曾有のコスミック(≒脳内宇宙的)な映像世界を完成させていることは、時代の変化も含めて、興味深い比較の対象といえるだろう。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

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