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[コメント] 恐怖の足跡(1962/米)

最後の最後に至るその瞬間までストレスを強要する。こういうホラーの作り方もあるんだ。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 映画における古典ホラーの傑作の一つに数えられる作品で、この作品をもとにした作品も数多く作られている。ハーヴェイ監督は元々教育用映画を撮っていた監督。本作はカルトホラーに分類され、『ナイト・オブ・リビングデッド』にも多大な影響を与えたと言われる。

 この時代のホラー作品は仕掛けで驚かせるとか、シリアルキラーが出るとかではなく、雰囲気だけで恐怖感を演出するわけだが、この作品はべらぼうにその雰囲気作りがうまい。

 主人公は、あくまで普通の人間のようなのだが、ある事故をきっかけに突然“霊”が見えるようになってしまう。そしてその“霊”たちが自分に迫ってくるようになる。その“霊”というのは、別段なにを言うわけでなく、青白い顔をして彼女に迫ってくるだけの存在なのだが、何ら実害がにからこそ、「何か起こりそう」という予感でずーっと寸止めさせられる気分にさせられていく。

 だから観ていて相当にストレスがたまり続けることになる。これだったらいっそがばっと襲われ、恐怖に泣き叫ぶんだったら、それはそれで楽しいのだが、この作品ではあくまでそれはしない。寸止めのまま、ストレスをため続けながらラストまでもっていくことになる。

 そしてラスト。その時に何故ここまで寸止めで引っ張り続けたのか、それが分かった時にすべて納得がいくことになる。

 このさじ加減がとても難しい。最後の謎は明かすわけにはいかないが、それをどう寸止めのまま緊張感を途切れさせないようにするか。そのためにちょうど良いタイミングで軽いイベントを起こし、退屈さを感じさせず、かつあくまで静かに話を進行させる。

 この難しさを上手いこと本作はこなしており、様々な不気味さが、やがて真実に収斂していく下りは見事!としか言いようがない。

 ただ、本作の面白いところは、そう言った謎解きの楽しさだけではない。本作のメアリーは、確かに陰気な性格をしているものの、他人から完全に無視されてしまい、何を言っても誰にも本気にされない…これは、社会に生きるにしてはあまりにきつい。ある意味人間にとって最も大きな恐怖心なのかもしれない。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)寒山拾得[*]

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