[コメント] 折り梅(2001/日)
同じ監督で同じアルツハイマー病をテーマにした『ユキエ』と同じく、これもきれいに纏められすぎている嫌いはあるが、老人介護の一つの理想形を描いているのだと思えば納得もいく。そしてそこから、理想形に不可欠なのは、何よりも周囲の理解と支援なのであることがよく判る。この映画に描かれる周囲の人達のほとんどは、じつに協力的だ。そんな人達の理解と支援あればこそ、劇中の老人も幸福な老後を送ることが出来るわけだ。
ただそれを見ていて思ってしまったのは、こんな介護生活の大前提となっているのは、(こんなことを言っては身もフタもないようだが)夫の経済力なのだろうということ。夫の経済力がなければ、主人公の老人介護をこれだけ十全に支援することは出来なかっただろう。故にここからは、もっと陰惨にならざるを得ないだろう、貧困者などが直面する過酷な現実は抜け落ちてしまうことになる。じつは本当に必要なのはまさにそのような人達を社会が理解し支援する仕組みであって、つまり問題の本質は、家族が頑張れるか否かではなく、頑張れる環境を社会がつくってやれるか否かであるはずなのだ。
この映画は老人介護の一つの理想形を描いているのだと述べた。だがこの映画はそこに(恐らくは原作者を含む作り手の良心から)希望としての幸福な絵を描こうとする余り、実際にはあるだろう不幸な現実は省みられることなく終わってしまったように思う。あるいは、他の家庭の事例などとして、そのような事例などを描くことがあってもよかったのではないか、という気もしてしまう。
しかしそれにしても、演出の細かいところで心ほだされたりはしたし(たとえばハンカチの投げ合いっこのシーンなど…)、これはこれで良心的な良作であったとは思う。
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