「グリーン・デスティニー」や「ハルク」など、エンターテイメントにこだわった作品も生み出したが、監督の持ち味は基本的に人物描写だ。

初期三作（「恋人たちの食卓」「ウェディング・バンケット」「推手」）に魅了された者としては、今作や「ブロークバック･マウンテン」や「アイス・ストーム」のような、人間の秘められた感情や紆余曲折を描いた作品に心を動かされずにいられない。

ひねくれていて、でも一途な愛が、長い時間にさらされ、消え入りそうになりながらも昇華されていく様子を丁寧に丁寧に描いていく。

アン・リーは巨匠だ。

「いつか晴れた日に」や「ハルク」のような完璧なアメリカ映画も作れて、自国を舞台にしたハリウッドの匂いを感じさせない映画も作れる映画作家は決して多くない。アン・リーはもっと評価されていいのではないか。

そして「ラスト、コーション」は素晴らしい。戦時の退廃的な上海を見るのは刺激的だった。物語の動機付けも完璧。見る者をグイグイと物語へ引き込む。

「セックスを武器に使う」という観念はよく聞かれるが、この映画のセックスはまさに銃やマシンガンに代わるものとして描かれる。セックス描写は官能的ではあるが、そこに透けて見える両者の思惑は正反対であり、終始ハラハラせざるを得ない。そういった意味で刺激的なシーンになっている。

タン・ウェイは色々な顔を見せ、目が離せない素晴らしい演技だった。 もっともっと面白い中国（系）映画が見たい。