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[コメント] かもめ食堂(2005/日)

淡々とした静かな作品だけれど、観た後まで深く印象に残る。そして、フィンランドを訪れてみたくなった。
ワトニイ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







個性的な女優3人の競演ということもあって、もう少し”濃い”作品になるのかと思っていたが、意外にも静かで淡々とした作品だった。彼女たちの演技も、フィンランドのお国柄と同じように自然体で肩の力が抜け、そのためかえってユーモアのスパイスが利いていて、映画館内も何度となくドッと湧いていた。

かもめ食堂の3人には、それぞれきっと辛く悲しい過去もあったのだろうが、そうした背景は一切描かれていない。話が進むにつれて、そうした過去も少しずつ描かれるのかと思っていたら、そのまま淡々とラストまでいってしまった。同じくトンミ・ヒルトネンにしても、夫に逃げられた女性にしても、ことさらに過去や背景を描いていない。でも、何か説明足らずという感じはぜんぜんしない。はっきり描かれていないからこそ、余計にリアリティもあり、印象深くもなっている。

サチエ(小林聡美)は、一見、他人と深く関わり合うことを避けているようにも見えるが、素性もわからないミドリ(片桐ハイリ)を簡単に家に泊めてしまうことから見ても、必ずしもそうではないことがわかる。サチエは、他人の気持ちに決してずけずけと踏み込まず、相手をとことん尊重する。時には突き放すかのように見えるけれども、それは相手のことを本当に思いやった結果なのだろう。成熟した個人主義と言ってもいいかもしれない。

そのことは、お互いに気心が知れて打ち解けてきても、最後まで相手に敬語を使って話す彼女の話し方に象徴されている。そして、和気藹々となりながらも、最後までお互いに丁寧な言葉遣いで会話する彼女達のイイ関係が、この映画の雰囲気を好ましいものにしている。

思うに、サチエは両親を亡くす前後、恋愛かどうかはわからないが、酷い裏切られ方をしたのではないか。心機一転、再生を期して見ず知らずの地フィンランドにやって来たのではないだろうか。でも、サチエの生き方、そしてこの作品の描かれ方を観ていると、そんな詮索をするのも野暮だと思い知らされる。

彼女の生き方は一見不器用そうだけれども、徐々にミドリやマサコ、トンミ・ヒルトネンをはじめ、かもめ食堂を訪れるフィンランドの人々にも徐々に理解されていく。そして最後は、かもめ食堂が満席になる。淡々と描きながらも、この作品はサチエの再生の物語なのだなと感じられた。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (7 人)りかちゅ[*] ペパーミント[*] 紅麗[*] グラント・リー・バッファロー[*] sawa:38[*] ぽんしゅう[*] 直人[*]

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