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[コメント] 双生児(1999/日)

塚本晋也の『羅生門』。モックンの、そして江戸川乱歩リメイクの最高傑作。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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20年ぶりくらいに観た。公開当時、映画館に2度観に行った。大好き。 ちなみに再鑑賞の理由は、NHK大河ドラマ「麒麟が来る」の斎藤道三役を見て、うちの夫婦でモックンブームが起きたから(<今更?)。斎藤道三もウヒウヒ見てたんだけど、『双生児』を観直したら次元が違った。これ、最高。

私、塚本晋也ファンなんですが、中でもこの『双生児』と『妖怪ハンター ヒルコ』が大好きなんですよ。ぶっちゃけコアな塚本晋也ファンに賛同者はいないと思うんですけどね。 この2作、塚本晋也自身が出演してしていない珍しい作品で(他には『悪夢探偵2』だけだと思う)、且つ、珍しく原作物なのです(長編では他には『野火』くらいだと思う)。 ジャズに例えるなら、オリジナル曲ではなくスタンダードナンバーの別演奏(別解釈)みたいなもの。 つまり私は、塚本晋也のオリジナル(の思想)も好きだけど、他者の思想の別解釈に面白味を感じているようなのです。

この作品、改めて観たら、江戸川乱歩よりも芥川龍之介「藪の中」=『羅生門』の印象でした。

いやもちろん、乱歩感も強いんですよ。 江戸川乱歩というと、猟奇趣味的怪奇ホラーのイメージが強く、この映画もその延長線上に思われがちです。実はそうした娯楽作や通俗もの(あるいは少年物)の他に、ちょっとした“奇談”も多いのです。特に短編に。 (なんて話だったか忘れましたが、奇談として連載しているうちに通俗娯楽に変更した結果、珍妙な仕上がりになった作品とかあるんですよ)

この映画は、原作から遠く離れたほとんどオリジナルみたいな話なんですが、実は原作同様“奇談”としての読後感があるのです。 優秀なリメイク。いや、換骨奪胎。塚本晋也の乱歩愛すら感じます。

原作と異なり映画は、三人三様の心理を丁寧に描写します(原作は一人称の告白小説だったと記憶しています)。 実は誤解されがちですが、塚本晋也の心理描写はいたって自然です。設定の不自然さに目が眩みますが、人間の描写は自然で素直なのです。 三人が、それぞれの“自然な感情”の視点から、一つの事象を見つめる。 しかし三人誰も真相が分からないままなのです。 (黒澤明『羅生門』は観客までも「藪の中」だったが、本作では観客だけが真相を知っている)

また別の見方をすると、「鶴の恩返し」パターンの物語にも見えます。『ゴジラ』と言ってもいいんですけどね。 つまり、弟の登場により状況が一変し、人びとに変化をもたらして去っていく物語。 ただこの映画は、単なる変化だけでなく、双子が「融合」する物語とも読み取れるのです。 この辺に塚本晋也の『鉄男』感があると思うんですよ。 そう思いませんか?思いませんか。ああ、そうですか。

(20.05.17 DVDにて再鑑賞)

(評価:★5)

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