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[コメント] CURE/キュア(1997/日)

耐えがたい緊張感と静かな怖さ。「この世界は不安定である」ことを描き続ける作家・黒沢清の原点。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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2023年に再鑑賞して評価UP。公開時以来の再鑑賞だったのですが、その後の黒沢清作品を観る度に「『CURE』が一番面白かったんじゃね?」と思っていたので、映画館で再鑑賞できて良かったです。やっぱり一番面白かった。たぶん。公開時は何だか分からない面もあったのですが、今観ると黒沢清作品で一番「観客に親切」かもしれません。

私は黒沢清を「この世界は不安定であることを描き続ける作家」だと言い続けていますが、本作がその原点だと思うんです。また、私は「黒沢清の黄泉の国」と呼称しているんですが、(主に映画終盤に)煙に包まれて不安定なコッチの世界はアッチの世界と繋がってしまう。彼のタルコフスキー好きを知っている今、これは『ストーカー』なんだと分かります。

それと黒沢清の特徴として、北野武が言うところの「因数分解」の多用があります。簡単に言えば、「代数」を用いた省略法ですね。本作だと洗濯機が典型例。実は「洗濯機が空回し」という描写は一度しかない。この因数は「炎」「水」「X」なども同様です。そして、その因数をわざと分解して見せるんですね。多くのミステリーは、この因数を集めて全貌を明かし「謎解き」をする(そしてそれが結論になる)もんですが、この映画は「因数分解」したまま観客に提示して、その先を予感させるんです。

言い換えれば、謎解きによって観客を安心させることは決してない(それ故、難解に感じたり雰囲気しか伝わらなかったりするんですが)。だって、「この世界は不安定」であることを描くのが「恐怖に対して真摯である」黒沢清のスタイルですから。

(2023.08.06 目黒シネマにて再鑑賞)

(評価:★5)

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