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[コメント] ウェスタン(2017/独=オーストリア=ブルガリア)

ピリン・マケドニア(ブルガリア南西部)というドイツ人からすれば歴史的な東方植民の延長線上が舞台なのに、ウェスタンという逆説的なタイトルをつけているのが面白い。カウボーイもインディアンもドンパチも出てこないが、女から見たフロンティアの汗と孤独と友愛と暴力ということで、異文化の衝突と行き違いのドラマが幼稚園の砂場の延長のように繰り広げられる
袋のうさぎ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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辺境の山中で土木工事に励むような中年の粗野で無骨な男しか出てこない分、女目線で理想化されたホモエロチックな関係がそこはかとなく匂い立つ瞬間が水際立つ。 同性愛とは違うのだけど、男性監督が描く男だけの世界・男同士の情誼とは、一線を画する優しさがあるというか。荒っぽそうな外観とは裏腹に、ぞくっとくるほど艶めかしい情感が染み渡る一時がある。 村の祭りのダンスで終わる酔い覚めの幕締めといい、クレール・ドニの『美しき仕事』の影響は覆い難い。

常に一触即発の暴力の予感をまとわりつかせながら(この不穏な空気の流れの満ち引きは見事)、一方通行の立ち回りと、何かが起きそうで結局何も起きない大団円で、ジャンルクリシェの裏をかく。 西部神話の幻想が、独立不羈を気取る流れ者の違算と不能によって立ち消えになる帰趨のほのかな哀愁といったらない。 野良犬のように飢えた目つきをして、野山の外れから外れへ、村の通りの端から端へ、仕事の合間にのそりのそりとそぞろ歩く男の沈鬱な面影が、贅言を弄せずにして現代の(いや、むしろ超歴史的な)<開拓地>の人生の一面を滲み出させる。

(評価:★4)

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