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[コメント] 大悪党(1968/日)

「恐喝と婦女暴行だけなら2、3年で出てくる。奴は必ず君を見つけ出して復讐する。ヤクザは執念深く、おまけに暇だ」暇だってのがとてもリアル。台詞が立っている。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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男に騙され転落する女とは実に古典的な物語。作り物になるかリアルになるかは腕次第、しかし増村は両方撮ってしまうという離れ業。

本作は「裁判と意外なその後」ものという類型でもある。このジャンル、増村には既に『妻は告白する』という秀作があるが、本作もいい。緑魔子のラストの啖呵が決まっている。幽霊になる若尾文子のような見せ場を設けてもらっていないのが残念。短尺だからこれでよしとしたのか。

その他の登場人物、殆ど男だが、彼らは劇中を通じてキャラが微動だにしない。だから安定した娯楽作という印象が強く、田宮二郎の造形など増村印の劇画だが、出てくる台詞が力強くてリアルに届いている。「企業のコマーシャルも政治家も嘘ばかりついている。何で私たちが嘘をついてはいけないんだ」。これって詭弁なんですけど、高度経済成長とは詭弁の強度を競い合った時代だという酷薄な認識が背景に浮かび上がり、無理矢理に納得させられてしまう。これが裁判劇とは皮肉が効いている。

シネスコなのにスタンダートのような撮影で、奥行を生かしてシャープ、この作品世界に似つかわしい。もしシリーズ物になっていたら、登場する度に「今日はもう帰っていいから」と言い渡されるちょっと可愛い女事務員ももっと活躍しただろうに、少し残念。

(評価:★4)

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