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[コメント] ホタル(2001/日)

韓国との対話を模索した立派な作品。私はバイデンが大統領就任直後に戦中の日系人隔離について謝罪したとき、理性に寄り添う立派な人だと思った。本作の健さんもそうだ。謝罪は信頼に繋がる。田中裕子の可愛いお婆ちゃんがいい。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







田中裕子の許嫁だった韓国人の特攻隊員小澤征悦の遺骨、韓国は特攻隊員の遺骨を受け取らず、目黒の祐天寺に千点も残っており、遺族に渡すには直接手渡さねばならない。これを奈良岡朋子から頼まれた田中の亭主の高倉健は、田中裕子を旅に誘う。日本のためでなく朝鮮民族と田中裕子のために死ぬと遺言残したと健さんは伝える(韓国朝鮮人の特攻隊員の扱いは石原慎太郎の『死ににいく』と対立している)。韓国の遺族の出迎える緊張した怒気を含んだ顔、述べられる上記の祐天寺の措置と同様の見解で怒る親族、一生懸命喋って乗り越える健さん、許す先方の母親、参った墓からホタルが飛ぶのが見える。

軍用食堂経営していた奈良岡朋子が回想する「出撃してホタルになって帰ってくる」と語った宮川さんがホタルになって帰ってきた話もすでに定跡だが、昔の特高映画では靖国にホタルが飛んでくる話になったりするのが、そうしないのは禁欲的に見える。「知覧の母」の看板掛けられたお別れ会で奈良岡は殺したんだ、実の母なら我が子に死ねと云わんでしょうと泣く。奈良岡さんらしい表出だった(八木秀次のような人がこれにイチャモンつけたらしいがお笑いである)。

天皇崩御の日、小林稔侍が健さんに「昭和が終わりました」と敬礼すると健さんは「馬鹿か」、新聞のインタビュー受けて「何もありません。ご冥福をお祈りします」と返している。小林稔侍のような大人は私も知っているが、健さんのような大人には恵まれなかった。宮中で空砲撃ってハイヤーが行列つくる画がテレビに映っている。

他の脇役も小林稔侍的なところがある。これがリアリティだと思わされた。井川比佐志は機体不調で特攻からUターンの後悔という定跡の人物だが、天皇崩御に合わせて雪山から戻らず、ひとりだけの出撃ですと健さんに遺言残す。この後ろ向きな人生には特に感想が沸かない。孫の水橋貴己の演技が信じられないほど下手なのはコネの配役だろう。

夏八木勲の元機関兵が特攻は忘れられたと語るが、次の件で知覧特攻平和会館に大勢の客がいたりする。ここで特攻出発の様子がビデオで流れており、映画はこれを長々収めている。ショパンの別れの歌のピアノが流れているのは施設のBGMなのか映画の劇伴なのか。

鶴の真似する健さんという、彼にして極めて珍しいコメディがある。田中裕子の透析シーンを見せないのは配慮というものか。寿命一年半と告げられて田中裕子への腎臓移植。「ふたりでひとつの命じゃろうが。違うんか」と夕暮れの船上。いいシーンだが、特攻話で十分重いので、この件はヘヴィーになり過ぎと思われた。

桜島見上げる海で、妻の田中裕子の病気を慮って養殖専門になった健さんは、もうこの近くの海には小型船で取れる魚はおらんと語っている。特攻映画には珍しく前夜の無礼講はない。断崖で石橋蓮司は密航者の手引きしている断片が印象深い。

(評価:★5)

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