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[コメント] 波影(1965/日)

置屋の女将の乙羽信子も、家の商売を嫌う息子の中村賀津雄も、どちらも是として相対した若尾文子。水上原作らしく映画は彼女を聖人と見做している。福井小浜の物語。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







昭和9年、小浜の三丁町(さんちょうまち)という置屋町。若尾は夫から逃げて山茶花の叔父を頼って娼婦になる。二階の子供らの向かい部屋のその向こうに湖の内海が見え、若尾は故郷の泊(とまり)が見えると語る。娘を連れて泊、兄は足踏みが動力で天井から下がっている独特な機械を使って金属工芸をしている。若尾は資金を提供する積りだった。墓所では「まいまいてんこ」の風習を愉し気に説明している。娘は成長して青空、海岸でラムネ呑む件の鮮やかなこと。

兄は機関学校に進んだのだが足を怪我して引き摺って、兵役免除、地元で漁師になるもカストリ呑んで家の金で遊んで自暴自棄。ちょうど公娼廃止令、兄は進学した妹の襟首掴んで二階の布団敷いた部屋を見せて回る。この件は地獄巡りの厳しさがある。「運命や思てるわ」と大空。彼女も一緒の女たちの海水浴、胸晒して溺れる春川ますみを救う若尾という鮮やかなショットがある。ただ、若尾を聖人扱いし過ぎのような気分が残る。

乙羽は息子の中村にボロカスに云われて泣く。「民主主義にカブレたらアカン」と唸る。意気地なしと叱る若尾を中村は襲い、小屋のなか仰向けのトロッコが転げて扉にぶつかる。その距離ホンの数メートル。裾乱した仰向けのまま動かぬ若尾。このような、まるで舞台のような狭さのなかでのキメのショットを豊田は多用したものだった。ああ若尾は娼婦嫌いの中村が好きだったのだなあと判明する。それは唐突だが哀切がある。客との濡れ場がほとんど映されない、放埓ではない若尾の造形が、ここで効いてきている。

大空は置屋商売が学校にばれて教師志望を覆され、ガス会社に勤める。先生になっとくれと云い続けてきた若尾はこれを悔しがるが、彼女の思い出で学校の先生とは何だったのか判然としないため具体性を欠いた。寂しくなった置屋に最期まで勤めて、癌を放置して亡くなってしまう。予告されたまいまいてんこがお遊戯のように執り行われる。樽に入れられての土葬。僧侶の三島雅夫の「ゆっくりお休み」の一言に感慨が込められた。彼は一発で持っていってさすがだった。

劇場に岡崎宏三の、低感度でコントラストの強いフィルムがちょうど入ったのでこの特性を内容に結びつけるように撮った、というコメントの雑誌の切り抜きがあった。表題は「なみかげ」と読ませる。東京映画、モノワイド。

(評価:★4)

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