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[コメント] 非常時日本(1933/日)

必殺デマゴーク荒木貞夫の演説実況と寸劇から成るバカ映画。本作は東京裁判の資料に採用された由。ネガが出回っているから証拠隠滅は無理だったのだろう。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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大阪毎日新聞社への陸軍省からの推薦状で始まる。やたら風雲急を告げる戦時映像とコーラス、劇伴、到着する機関車とか万歳する人々とか分身する男の横顔とかのコラージュはロシアアヴァンギャルド風。この手法は再々採用されている。

字幕「昭和六年九月十八日以来、日本及日本人は由々しき時局に直面して居る。依って吾人は荒木陸軍大臣閣下に今日の時局に関する所感とその将来に対する決心とをきかんとする」。日の丸バックに軍隊ラッパで荒木登場。「諸君にいわゆる非常時について私の所懐の一端を開示」。映像は歩行者の足を連ねて逡巡の気分を表明する。「私は、人に頼っておっては、すなわち他力本願でおっては、到底、永遠に、東洋の平和は期待できないと考えます」。アジアの平和は神国日本の使命と、最初から断言する。

歴史的過程の回顧。平和を愛するのは民族的根本。明治維新以来真の日本の姿を世界に現して以来、常に正義に密着し、平和のためには一切を投げ打つ決意のもと国民一致協力して邁進し世界驚異の大飛躍を成したのであります。しかし現在、これが沈滞の傾向を示しているのは否みがたい事実。慢心、油断、忘却により、成金気分、欧米の心酔となってその文物を取り入れて、日本民族の理想は失われた。

銀ブラ他西洋かぶれの映像が連ねられ、銀座の煌々たるネオンサインが記録される。再現フィルムみたいな寸劇がある(この映画のための劇だろうか、それとも他の映画の引用だろうか)。夜の人混みのなか壮士風の菅井一郎が足踏んだ女(誰だろう)に怒鳴られて謝るがさらに絡まれ、もっと謝まれと云われ、マンドリン弾いていた男が片膝ついて見せてついに菅井がここは日本帝国だと怒る。

どっちもどっちみたいな寸劇だが、荒木は菅井の開き直りをよしとし、西洋かぶれを批判する。「このような富裕層の奏でる亡国的頽廃的雑音が日本組しやすしとの軽侮の念が国際的孤立と満州事変を招いた、国民が種を撒いたと信じて疑わないのであります」と無茶苦茶を語っている。

しかし事変に際しては皇国日本の面目躍如と協力を褒め称える。「感激の涙なくして回想せざる」とか云っている。このように褒められて国民も満更ではなかったのだろう。政府トップが国民褒めるなんてのはウケるのだろう。

続いて新聞売りの少女(満州にいる兵隊さんはもっと寒いじゃないの)と、ブルジョア男女の銀座でのダンスが対照される。映画は後者を貶めて前者を褒め称える、国民を二分して分断し、一方を貶しまくる。この仮構された攻撃性は既視感がある。既得権益を貶しまくる昨今の政治家と似ている。男女は帰りにクルマで少女を轢く。なんと少女は男女の娘で、娘は満州の兵隊さんに売り上げを送るために新聞売りをしていたのだった。学校の先生が今日日ダンスしている大人はおバカさんだって云っていたと少女歌劇みたいな発声で云われて両親は反省するのだった。毛糸の帽子被った娘はなぜか洋風で可愛い。

荒木の信ずるところは、この難局を打開するには「我々同胞全部が徹底的に完全に日本人たるところの自覚を喚起して、もって日本人の真実に立ち返るより他にはありえないのであります」。日本の真の姿は極めて明瞭。「我が日本が始められましたる徳の、その理想に立ち返ることであります」。鏡は公明正大、勾玉は仁愛、剣は勇断を表象する、この三種の神器の精神により神国日本を建設。使命は明らかであります。伊勢神宮などが映される。

軽佻なる風俗に犯された刹那主義が次第に顕著、祖国はいずこにあるやと荒木は嘆く。浅草の町並みや洋画のラブシーンのポスター、路上で化粧するお姐さんの切れ長の目のアップ、ひとつのグラスからふたつのストローでジュース飲むカップル、ゴルフ。「満州事変は日本国民の反省を促すために乱打された警鐘なのであります」と訳の判らないことを云い、犠牲を弔い東洋平和を謳う。

国防と皇軍について図表が出て来る。「国防とは」から線が三本引かれて「国の守り」「国の道の守り」「日本道の守り」三本が一点に集約され「皇道の守り」。敗戦の最後まで国体護持に拘ったスタンスと直結している。「皇道は」から二本線が出て「時間的には悠久永遠性」「空間的には拡大発展性」一本になり「皇軍の使命」「国防」。永遠に拡大する積りだったらしい。昭和天皇が白馬に乗って行進。「陛下の御心のままに動く、これが日本の軍隊である」。皇軍は駐屯してはその人民に親しまれなければならない。やむを得ず畑を荒らすようなことがあっても、それは陛下の御宝、農家の芸術品と考えなければならないと、出来もしないことを云う。軍が行進して荒らした畑を直す感動秘話が挟まれ、剽軽な日本人農夫がいい味出している。

皇軍の歴史は八百万の軍神。中世以降は武士は特権階級となったが明治維新、国民皆兵の大改革で建国以来の王道に還った。国家総動員の準備をしなくてはならない。精神の総動員だと大日本婦人会や千人針、ガスマスクした看護婦などの様子、いろんな乗り物、いろんな機械が前衛フィルムのように映される。

かつてロンドンタイムズは日露戦争に寄せて崇高なる精神を褒め称えたと世界が羨む日本論。軍備については物的装備が必要と各国陸軍飛行機数の比較、フランスが一番多くて3000機、ロシア2200、アメリカ1800に対して日本は一番少ない600機。アニメは日本軍機が他国の飛行機を蹴散らして「東洋永遠の平和を目ざして正義の軍、さればこそ皇軍は強し」と字幕。新品の飛行機に神主がお祓い。道徳の遂行としての軍備と一方的な理屈が並んで中国大陸での高射砲や飛行機や戦車や乗馬等の戦闘風景。敵は見えず、撮影兼ねた演習なのだろう。劇伴なく淡々と続くのが面白い演出。オッサンの声聞こえなくなるのがいい。馬車の大軍の突撃は戦国時代を彷彿とさせ珍しい。馬賊と戦うのだろうか。

艱難は汝を玉にすると雪山登山の寸劇。最後まで奮闘努力してこそ日本人。アジアをこのままで捨てておくのか。ジュネーブの国連会場、「獅子吼する松岡大使」と松岡のチャップリンみたいなボーとした顔が映されるのが笑える。富士山全景。天の試練は投げかけられている。「御製 敷島の大和心の雄々しさは ことある時ぞあらはれにける」。日の丸はためき鳩は舞い、工場のクレーンやら機関車やら働く人々やらが映され明治天皇の歌「御製 くろがねのまと射し人もあるものを つらぬきとほせ大和魂」「御製 千万の民の力をあつめなば いかなる業もならむとぞ思ふ」。アジアの前途洋々。バンザイする大集団。海原の曙に「光は東方より」と字幕がドアップになってバカ映画は終わる。

(評価:★1)

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