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[コメント] からゆきさん(1937/日)

海外売春者への差別を描いて先駆的。そのタッチはとても戦中とは思えない辛口で、何かの事情で傾向映画が突然撮り直されたかのようだ。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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冒頭に字幕。「西日本は外国貿易の中心、貧しい者が外国へ出稼ぎ、その地方でいつの頃からか「からゆきさん」と呼ばれた」。からゆきさんの表記は本作が先駆らしい。

明治39年の夜、貧しい着物来た女十人ほどが髪結い屋の二階の隠れ家からシンガポール行きの石炭船に移される。片目の女衒に巡査は他のものも沢山積み込んだんだろうとニヤニヤしながら囁いて、しかし何もせずに去る。黙認している訳だ。小舟から船の積み荷の蔵へ放り込まれる。この件からして戦後映画と遜色ない描写。

大正七年、大きな客船で借金返して稼いだ入江たか子は息子アントン滋野ロヂェーと帰還。「からゆきも減った。どこの国だって外聞が悪い」と噂話が聞かれる。「どこか他の国だって暮らせる」「田舎なんて姐さんたちには命取りの鬼門」と船員が忠告し、上陸してからもアントンの先生北沢彪は「この村離れたほうがいい。偏見が多い」と諭している。

彼女らからゆきさんは丘の上の人達と呼ばれ、その名の通り山の上に白い垣根の続くこじんまりした洋風の瀟洒な邸宅が並んでいる。彼女らは自分の稼ぎで家建てている。W清川がからゆきさん仲間。宴席で南国の酒呑み、下男が鶏を丸焼きにしているのがひどく印象的。村の公会堂が失火で焼けて、玉枝がザマミロ虐めた罰が当たったと嘯く。

アントン君は同級生にイジメられ、学校では休み時間にひとり鉄棒。議員を目指す入江の兄の丸山定夫は入江に公会堂再建の寄付を申し出る。アントンのためにもなることだと殺し文句を云われて入江は千五百円寄付。アントンは叔父から望遠鏡をプレゼントされて海を覗き、シンガポール行くには何日かかると尋ね、入江は17日間と答える。

新公会堂の落成式。額には共存共栄の文字。入江は入れず扉から眺めるなか、冷やかしの声を受けたアントンは『長距離ランナーの孤独』の先駆のように感謝状を受け取らず、会場は混乱。座興で流れる南洋の住民がヤシの木登るような映画が壁に明滅するなか、大荒れになる。入江は首にかけたロザリオ千切り、「どこまで虐めるんだ」「あんたたちウジ虫以下じゃ」と絶叫する。この激越は『何が彼女をさうさせたか』など想起される。

アントンは父の親戚に引き取られてイギリス行。「こんな所に帰って来たのが間違い」「お前が偉くなるのなら」と入江は引き渡してしまう。我が子のような可愛がっていたW清川たちが涙ながらに送り出すところで映画は終わる。入江プロの菱形にIRIEと描かれるOP。波無村は架空の土地名だろうがネットでは島原辺りとの説もあった。

(評価:★5)

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