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[コメント] 狂熱の果て(1961/日)

大宝の太陽族(六本木族)映画で新東宝路線のごった煮が珍味。80年代アイドルみたいな星輝美のヒロイン痛々しく、水木しげるの妖怪みたいな鳴門洋二が大活躍、五月藤江さん絡みのホラーまであり、幾つかのロングショットの非人情なタッチがとてもいい。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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顰蹙太陽族(六本木族)、葉山からオープンカーで朝帰りの連中が東京タワー背景の電車道で牛乳配達の自転車ひっくり返して詫びの代わりに札投げるOPが長回しのいいショット。太陽族の中心人物は洋酒会社の御曹司顯ケンジ松原緑郎で、会社のパーティでアドバルーンに穴開けて遊び、レスリングに入れあげ、妊娠したと結婚迫る女に煙草を押しつけたりする。

太陽族に入ったミチ星輝美の家庭は爛れている。自宅療養の父中村彰は鬱も併発している具合で、軍隊時代を懐かしがり、母の利根はる恵は若い鳴門洋二と添い寝。ひどいオカンである。鳴海の父は巣鴨で中村と一緒で絞首刑、無罪になった中村に引き取られている。父は娘に「お父さんに罪はなかったのだ」「お父さんを邪魔者にした奴を呪いながら死んで復讐の鬼になる」と自殺未遂して入院させられて、とても即物的な描写でもって飛び降り自殺。星は母との縁を切る。

前後して鳴海は「お母さんとは何でもないんだ」と星を強姦。星は「どおってことないわ」と捨て台詞で友達のアキコ秋本まさみ(この娘も可愛い)宅に逃れるが、鳴海は太陽族一味に取り入り、打算で松原の妹松浦浪路と付き合う。

ペット吹きヨージ藤木孝は振った彼女に自殺されてニヒル。太陽族を豚どもと貶し、アメリカ人に君が代を吹き、レスリング部を「男色」と皮肉り、星と同衾するがその後は無視。デート代借りた質屋帰りに藤木が浮浪者と入れ替わっていて星が失望する件が妙に印象的(昔の電話ボックスの佇まいが効いている)。藤木はペットの職も失いさらにニヒル。

後半は葉山の別荘。松浦はクルマで五月藤江さんを跳ね飛ばし(樟脳が吹き出ているショットがすごい)、抗議する亭主の山口多賀志を鳴海と一緒に崖に突き落とす。鳴海はさらに落としたミス洋酒の女優秋本まさみをベッドで侮辱。太陽族のみんなはアフリカンなタムバックにラリッたダンスして、泥酔したんだろう床に寝込んだ面々を鳴海と松浦がと積み重ねて「アウシュビッツ遊び」。すると照明が消えてライトが近づき、五月さんの幽霊かと思いきや、ライト逆さに顔を照らした藤木(彼もクルマに乗っていた)が登場して「死人がお前たちを呪っている」。新東宝らしい太陽族映画である。

鳴海は続いてなぜか星は夜の砂浜に座っていて(幽霊騒ぎの後なのになんでひとりでいるのだろう)、鳴海がやって来て「お前は俺から離れられないんだよ」と再び強姦。そこに藤木が来て鳴海と取っ組み合いして、藤木は星とふたりで太陽族映画らしく夜の海にボートを出す。翌朝、ボートのガソリンはなくなり、藤木と星は洋上で抱擁して、お互いに生死観を語る。一緒に死のうと云う藤木に星は、私にはお父さんの呪いが乗り移っているのよ、だけど死にたくないと云い合いしている。ニヒルだった藤木が星に愛情を示す展開に説得力がないのが本作の瑕疵だが、確かにここまで幾つかの死があったのだったとは思わされる。

もう一晩ボートで明かして救出。鳴海は松原と一緒に罪を藤木になすりつけていて前科者の藤木は留置場。御曹司は疑われないのだろう。星は「この家で幸せになってくれ」という父の遺書に従うかのように、鳴海に付き添われて自宅に戻ってしまう。藤木は刑事を殴って逃走して星に会い、ふたりで生きようと説得するが星は拒絶。再び呼び出しの電話を受けるが、星は警察に電話して、藤木は駅前(「えびす」という看板が見えるから恵比寿だろうか)で逮捕。その場に来た星は「愛している」とわめく藤木を涙をためて見送る。

そして星はテニスしている鳴海をナイフで突き刺し、続いて松原も刺そうとして取り押さえられてしまう。この即物感あふれるロングもいいショットで、とても印象的。ホラー風味と親和性があるのが絶妙だった。ラストは茫然とした星の横顔。

話は旧軍人の不幸とビール会社の成金のそれぞれ二世が対照されたのだが、そこに藤木の来歴が絡まない(どんな人物なのか不明のままだ)ため、深みを欠いたと思う。星の自宅の黒電話、ダイヤルの中央に「受話機を耳にあてて(読み取れないがツーという音が出てから、なのだろう)〜ダイヤルをまわしてください」と使用方法が書いているのが時代。予告編に「六本木族が出演の異色演技陣」とある。DV特典映像での監督発言で、六本木族は渡辺プロが作り上げたらしく、秋本まさみは中心メンバーで体験談を書いており、ここからホンが書かれた由。「映画界の新しい魅力 新生○大宝」映画。

(評価:★4)

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