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[コメント] かあちゃん結婚しろよ(1962/日)

邦画全盛期らしい品格のベタ映画。『煙突の見える場所』的横滑りの作劇が変奏される地獄巡りが突然に過激で伴淳が冴えまくり、体育教師ハナ肇と子役時代の中山千夏が素晴らしい。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







新潟の漁村は不漁で、冒頭中村是好一家は村を出てゆく。海流が変化した、他所のやつらが底引きで海荒らした、スケソウダラ一匹釣れなくなった、取れるのは蛸だけと云われ、アラタマの営む定食屋に客はない。田村高廣は大きな船でソ連国境まで漁に行くと云って(漁民仲間には批判されている)アラタマに求婚。押し売りが置いて行った試供品のクリームつけて田村の夜這い待つアラタマの処に、伴淳が乱入する。

この件はいいパニックがある。アラタマは後になって10年前に離婚したと云うのだが、事件中はその情報がないし、伴淳は離婚に同意しているかも不明である。伴淳は田村のために用意された酒をラッパ呑み、この家の権利書よこせ金にしてやるとクダまく。とんでもない男である。アラタマは外で膝組んで座り込んでしまい、息子謝春国の教師津川雅彦に助けを求め、津川は柔道教師の何とハナ肇を連れて来る。彼の顔アップは衝撃がある。伴淳はハナにボコボコにされたらしく去る。

ここから突然面白くなる。父は死んだと聞かされていた息子は、金盗んで忘れ物の靴袋持って、東京の伴淳の処へ行く。伴淳はチンドン屋で女装してクラリネット吹き、下町長屋に住まわって日高澄子と同居、娘青柳真美までいる。息子の訪問に喜んで昼間から呑み屋に引き廻し、昔丁稚してクビになった店の軒先でクダまいて、慣れているらしい店員に追い出される。何という恥ずかしい父親だろう。しかし息子は「ときどき孝行するよ」と語る。

日高にお帰んなさいと云われて、娘とお好み焼き食べて、娘の友達中山千夏(さすがにいい味出している)と三人で花屋敷行って大人の会話して、何と娘を連れて新潟へ帰る。息子は旅慣れてしまったのだろう。海を喜ぶ娘を舟に乗せて佐渡へ漕ぎ出す無茶で限界を知る。引き取りたくなったと云うアワシマと観光して、娘はチンドン屋の踊り踊って息子は叱っている。娘は津川に連れられて東京へ戻る。

息子には父の血が流れているから、という説明は時代の産物だが、このどちらも貧乏な新潟と東京の交通はとてもいいものがあった。富者と貧者の接触はよくある物語構造だが、これを応用して多くのことを物語れている。中終盤に主役が横滑りする話法は『煙突の見える場所』の変奏で、さらに冴えている。東京へすぐにでも行きたがる息子に津川は、世の中どうにもならないことがある、焦らずに少しずつやっていくしかないんだと諭すのもいい。息子は最後は船長志望に戻るのはやや弱いが。

後は田村の船が転覆した誤報と帰還のハッピーエンド。タイトルは最後の科白になるが、あんまりいい題とは云い難かろう。これで損している。撮影は60年代らしいアグレッシブなもの。アラタマの妹の倍賞千恵子は軽トラでスーパーの運搬している。原作「海のある窓」。新潟県観光課が協力。

(評価:★5)

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