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[コメント] 街の天使(1928/米)

全体通じてシリアスなメロドラマだが、コミックから始めて徐々にヘヴィーに進む古典的演出で、さらにホラーにまで足を延ばすのがサイレントらしい。ジャネット・ゲイナー第1回アカデミー受賞3作のひとつで『サンライズ』『第七天国』と並べても遜色ない秀作。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







病気の母の治療のため売春しようとしたゲイナーは警官につけ狙われて曲馬団に身を隠す。そこで画家のチャールズ・ファレルと恋に落ちてナポリからパリへ移住するもそこで逮捕される。ファレルは彼女の過去を知らず、画がかけなくなり酔っ払いに落ちぶれ、出所して出所後逢えずにまた街娼をしているゲイナーに襲いかかった末、教会でゲイナーを描いた画を見て許しを乞う。

序盤の売春は悲惨な事情だが、二階の窓から街娼を眺めてあれで金儲けしようという簡単さや、童顔のゲイナーが帽子斜めにかぶって胸はだけ、さっさと警察に捕まり即決裁判から逃げて屋根伝うなど、コミカルに演出されている。シリアスをコミカルから始めて徐々にヘヴィーに傾けていく演出がある。

冒頭に破られた太鼓に潜り込んで隠れて、次に修復された太鼓にゲイナーの挿絵が描かれているショットが鮮やか。サーカスは『』のような鉄棒曲げがいるのが目を引いた。ゲイナーはバレリーナみたいな衣装で竹馬に乗っている。

ファレルに求婚され指輪を貰う日、ついにゲイナーは刑事に捕まる。実にメロドラマである。1時間だけでいいのとファレルの元に行くが彼は泥酔している。ここがじっくり撮られる。カーテン越しに手招きする警官。後のゲイナーを襲うシルクハット被ったファレルの手先はドラキュラのようだ(ゲイナーの亡霊に見えたのだろうか)。ホラー寄りの演出がここぞという処で挿入される。

貧乏絵描きのファレルの描いたゲイナーの肖像に老人が天使の輪を描き足す。クライマックス、夜霧が画面の下半分を覆う不思議な美術が施されるなか、彷徨うファレルはその画が教会に掲げられているのを見て覚醒する。彼女は天使なのだった。彼の顔がアクマから一瞬で真人間に戻るのがすごい。ホラーの反転はとてもキリスト教的だった。互いに許しを乞う収束。

冒頭の素敵な字幕「愛や災難で鍛えられた魂と、我々は街ですれ違っている」はこのラストで示された。戯曲の映画化。

(評価:★4)

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