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[コメント] ピーター・セラーズの労働組合宣言!!(1959/英)

企業も組合も喧嘩両成敗の逆両論併記でそこからのアジールはヌーディスト村。イギリスものらしく皮肉が蔓延し、保守的な理屈もまかり通って驚かされるが、個別の描写は時代を反映していていろいろ興味深い。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







冒頭のジョン卿(ピーター・セラーズの二役)と第二次大戦の戦勝という件は何だったのだろう。OPの漫画には戦中は軍隊、戦後は企業にこき使われ、という皮肉が見えるのだが、関連もよく判らない。サーの称号持ったものが二役目の組合委員長になるということなんだろうか。

50年代初頭のイギリス、ヌーディスト村、父親は裸になっているがイアン・カーマイケルはまだ羞恥心があるらしく着物着ていてヌーディストの女たちのテニスの誘いも受けられない。そんな変わり者の彼は労働者志望、オックスフォード大学は彼ひとりのめに就職口を幾つも紹介している。マンモスになる前の大学とはこんなものなのだろうか。漂白剤の洗剤メーカーは叔母が発疹、菓子工場では器械の吐しゃ物のような原材料にゲロ吐く、等々の皮肉ののち、叔父バートラムデニス・プライスが取締役のミサイル社にコネで入社。

人事部長テリー・トーマスは「時間動作研究」、前任者は職場委員会(組合)に見つかり病院送り。「このクレーンは12人分の仕事をしますね」などと機械化の感想を漏らしたカーマイケルは二人目のスパイと疑われる。彼がフォークリフトで作業するとコンテナに隠れてトランプしている労働者がカフカの小説のように登場する。「余剰解雇者だ。経営者は解雇したので職場委員会はストを宣言、だから名前だけの検査係として残っている」。

フォークリフト充電のコンセント抜けを発見した職員は発見しただけで差し直してくれず、カーマイケルは翌日フォークリフトが使えない。文句を云うとそれは別の組合員だからだと教えられる。なぜふたつも組合があるのか、双方が賃上げ競争をする必要があるからだとの答え。そういうパターンもあるのかと勉強になった。

職場委員会のピーター・セラーズが大人数引き連れて早足でやってきて、カーマイケルが組合証を持っていないと答えると仕事を中断させ、職場委員会は人事部長にストを宣告。しかしテリー・トーマスが即馘首と告げるとセラーズはスパイじゃなさそうと撤回してカーマイケルを組合に加入させ、労働者らしい自宅に下宿させ、その筋の本を勧めソ連に行ってみたいと語ったりする。その他、やたら痰を吐く労働者を諫めるような描写もある。

このように怪しい組合だが経営者も怪しい。叔父バートラムはアラブ人とミサイルの契約。契約延期の延滞金を分け合おうと部下のリチャード・アッテンボローが説明し、原因は不出来な社員カーマイケルのせいにする。カーマイケルは画策して他社へ契約を移して乗り移ろうとするが、ミサイル社への同情からその会社はストに入ったりする。しかし、これしきで全国何百万人がストという展開は、コメディにしても無茶に見える。

労働時間測られたカーマイケルはフォークリフト四段積みで効率的に働き、組合から「分離」という処分を受けて、それは村八分、みんなと一ヵ月口をきいてもらえない。新聞記者が来て好意的に取材されセラーズの家族は効率的な労働は「ソ連にいたら英雄だ」と語るのだった。経営者の息子と知ってセラーズは怒るがカーマイケルはスト破りして働く。彼の家はスト反対の群衆に囲まれる。

組合は暴力的だから嫌いな伯母マーガレット・ラザフォードがカーマイケル訪ねてセラーズの家を訪問、最初は警戒しているが、セラーズの妻アイリーン・ハンドル曰く「この前も主人に云いました。全部変えろと云っていたら、貴方には何が残るの」彼女は保守的と知って接待を受ける。「結局、家族の繋がりが物を云いますわ。しつけの基本を忘れないこと」「紳士はストライキなど信じらせませんことよ。将校は反抗しませんわ」。この件は保守とは何かを的確に表現している。かも知れない。この辺りを映画は理想としているニュアンスがある。

カーマイケルを下宿から追い出したセラーズにこの妻と子はストライキを起こす。妻は「組合も霜の生えたソビエト連邦も沢山」と云っている。娘のリズ・フレイザーは関千恵子さんそっくり。ひとり暮らしで下手糞な家事するセラーズはテリー・トーマスに、組合立会の元での時間計測に同意している。怠ける労働者では駄目だと気づいたという含意だろう。

最後のテレビ番組出演、カーマイケルはアッテンボローの渡した大金をバラシて経営者側を訴えるのだが、他方セラーズには「労働者の権利」という皆が慣れ過ぎてその臭さがにおわなくなっている、審問なしの死刑はソ連のやり方、とボロカスに云って労使喧嘩両成敗としている。ソ連の悪評は59年ですでに観客が判る処まで報道されていたと判る。最後は労使双方から訴えられて精神障害の判決を受け、狂ったヌーディスト村に戻る。ここは馬鹿の振りして馬鹿を裁くというコメディの文法がある。"I'm alright, Jack "とは、イギリスの表現で、自分の利益のためにしか行動しない人を差す慣用句とのこと。

(評価:★3)

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