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[コメント] 壮士劇場(1947/日)

角藤定憲を描く憲法普及会製作映画(他に渋谷『情炎』と亀井『戦争と平和』の由)。中江兆民作詞「やぶれ障子と私の権利、張らにゃなるまい秋の風」。阪妻の似合わない長髪が時代を記録している。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







明治20年逢坂山の山道、傘被った大泥棒の山本礼三郎の腰縄を握った阪妻の巡査は、獄で人間扱いされなかったと嘆く礼三郎がトイレというのを偽りと知りつつジレンマの末に縄ほどく。「おれはさっきまでお前が罪人とばかり思っていて人間だと思わなかった。許してくれ」。礼三郎にも許しの気持ちが伝播して逃げず、俺は罪滅ぼしをしたいからと再び縄で縛られる。

という小説(体験談)が役人の御咎めを受けたが、臆病になるな自由平等を具体的にするのが我々の務めと阪妻の角藤定憲を励ます中江兆民(香川良介)於自由新聞社。竹野(東町友惠)は親の反対にもかかわらず阪妻を想う。

阪妻「壮士改良演劇」の役者募集、「自由民権を国民に訴えよう、徳川の封建時代につくられた歌舞伎をぶっ壊そう」と大胆な言葉が、ワイヤーつかった早回しのショット挟んで述べられる(後半でも旦那衆が、やっぱり芝居は歌舞伎でないと儲からんと喋る件がある)。東町連れて親の荒木忍やって来て白粉つけている阪妻みて「河原乞食の真似をするとは」と激怒。東町と涙の別れ。

堕胎事件を扱う裁判劇。「同情がなければ真理は理解できません」と弁護士の阪妻。新派嫌いで歌唄う酔客牧龍介を舞台に上げて彼の裁判が始まる。裁判官「当劇場からの追放を命ずる」という当意即妙。ここは面白い。やられた牧はたまったものじゃないだろうが。

「藩閥政府の攻撃を専らとしたかどで彼等の一座は都会を追われた」と字幕。旅回りでも県に睨まれて中止になったり。日高澄子(本作デヴュー)は衣装方。民主主義作品への参加を運命づけられていたかのよう。団員たちは、自由はどこにあると海に叫んだりする。兆民は一座の解散を思いとどまらせる。「やぶれ障子と私の権利、張らざ(ママ)なるまい秋の風」の字幕。警察のお偉方に宴席でイジメられて阪妻は太鼓叩いてこの歌唄って入江たか子を救う。

舞台は大立ち回り、「権力を持って人民を苦しめる」「これが明治政府の真実の姿なのだ」と叫ぶと警察が中止と命ずる。このパターンは戦前に多いですな。ナントカ令違反と云っている。治安維持法とかまだない時分から官憲は同じことやっているのだった。阪妻は一貫して警官に手を出さない。

阪妻留置、釈放されて舞台挨拶。「我輩は天下の法律は公明なるものと信じます。法律を蔑視するは未開人のなすことである。文明人たる我々はよき法律のもとに(聞き取り辛い部分あり)公共の善をつくり公共の善を行わねばならないのは勿論であります」官憲の暴行を摘発し、「これを官吏横暴、人権蹂躙と云わずして何ぞや」。「言論を慎め」と机叩く見張りの警官に「黙れ、言論は自由だ」。賛同の笑いが客席から。違法を云う警官に「諸君は今こそ覚醒してもらわねばらなん。二千五百万人民(当時の国勢人口の由)に対して大不義の亡国政府を打倒して、速やかに民衆のための政府を」と云った処で警官に胸倉捕まれ平手打ちの連行。

続いて阪妻は署長を馘首にしたと讃えられるギャグがあり、しかし客は警察が怖くて不入り、それでも入場している少数の客を、入江は「とっても勇気がある」と讃えている。優れた観客を讃える、という切り口は珍しい。あらまほしきものだと思われる。

終盤は入江の見せ場になるが不調和だったかも知れない。劇団は北海道で解散、波止場人足にでもなるかと解散式。入江は一座のために金を残して消える。彼女の残した鏡を金槌で割ってみんなが欠片を貰う。これはどういう風習なのだろう。

憲法発布、国会開かれ、明治三十五年。新派大入り。阪妻「現在の選挙法では話にならん。普通選挙だ。憲法の書き換えをやらにゃならん」。成功は鏡の破片のお蔭と云っている。

盲人伊三郎(葛木香一)の尺八に合せて路上で唄う入江たか子、盗まれた鏡の破片が光るの道端で見つけて届ける(盲人にも鏡の反射の光が見えたという印象的な件がある)。「やぶれ障子と私の権利」と唄って再会。亭主は日清戦争で失明。

東町は警視総監婦人になっていて、阪妻の成功を知って、歌舞伎ならいいけど壮士じゃねえ、と憎まれ口を云い合う。総監の馬車が盲人をはねかけて逃げようとし、降りて謝れと怒る阪妻、「君は官僚病に罹っている」。野次馬に「諸君は厳正なる民衆の声を上げるべきだ」。連中は罵声を浴びせる。ラスト、東町はひとり阪妻に詫びに来るのだった。この官僚嫌いの感情爆発はイマイチそぐわないと思うが、それだけに強烈であった。

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