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[コメント] けものの眠り(1960/日)

まだ清順らしさは主張されず、典型的な日活活劇として上出来の佳作。序中盤の清張ばりに謎をばら撒く手際が優れており、芦田伸介の陰影が心に残る。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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2年間の香港支店長としての単身赴任から戻った芦田伸介。会社の歓迎会から戻らず、会社へ行ってみれば退職した(嘱託取りやめ)から判らないと云われ、娘の吉行和子と婚約者の新聞記者長門裕之が伝手を辿れば渋谷のバーでアケミが宝石預かったと告白され、同じ勤めのあけみから王という札付きの船の搭乗員が割り出され(長門は王を「三国人ですね」と確認している)。そんな最中に芦田から電報が入る。「帰る。気まぐれだよ」。で本当に帰ってきて、横浜の商事会社に再就職、その船とも取引があるらしく。芦田は長門が尋ねても不機嫌にダンマリ。

という序中盤の怪しい展開がとてもいい。あとは王や小松が殺され、芦田の悪事がぼつぼつ暴かれる後半は普通。芦田の妻の山岡久乃と区別のつかない初井言枝は新興宗教の信者で登場するので今回は見分けがつきやすい。広大な施設の庭を竹箒で掃除したりしている。「新興宗教をあがめるなんてパパらしくないわ」という吉行の発言がある。アクションは普通だが、中盤に長門が襲われる商店街がいい。アーチなどアーケードにはネオンがついているのだが商店は全部シャッターを下ろしているのが不気味。

老け役の芦田が素晴らしい。55歳定年の時代の話。香港で麻薬の取引に引き込まれ、盗まれたので退職金で弁済しようとしたら笑われた。1/10の値でしかなかった。いままでの人生が否定された、という幸福を金に換算する動機はイマイチで、おじさんの獣が眠りから覚めたんだという長門の解釈も俗だが、芦田の造形の肉付けが優れており無理を感じさせない。娘の吉行にみせるせせら笑いがすごい。火事の炎につつまれ自殺するように死んでゆく最期もそこまでしなくてもとしか思えないが、「パパは悪党になっても上手くいかなかったよ」という表白は印象に残った。モノワイド。

(評価:★4)

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