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[コメント] 戦争と平和(1919/仏)

アベル・ガンスらしい力技でゴリゴリ観せるのだが、内容がDV亭主挟んだ三角関係では何だかなあと思っていると、終盤別のスイッチが入ってもの凄いことになる。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







DV亭主挟んだ三角関係は地味。最後の出兵で不倫のふたりを抱擁させて寂しく佇むDV亭主のセブラン・マルスに哀愁はあるが、「4年で夫は善人にかわった」なんて改心や帰還したらたちまち死んじゃう詩人の母、なんて展開は三流で見ていられない(DV亭主の父は途中失踪するが、その結末はどうだったのか判らなかった)。この4幕物は監督により短縮されて幾つものパターンがあるらしいが、確かに序中盤はどうでもいいように思う。

鉄路の白薔薇』や『ナポレオン』同様、迫力ある画はすでに優れていて、円を描いて踊る骸骨が妙に愉しく、吠えまくる番犬など迫力。DVされてマリーズ・ドーヴレーが乳首を見せるのは『春の調べ』(32)より早いヌード描写。きっと現場でも狂気の監督だったのだろう。一方、詩の朗読の背景になる田園の風景画などは映画らしくないし、戦争シーンは序中盤は塹壕を右往左往しているだけで退屈。3部で「米仏軍ご協力の下撮影」と断りの後に派手なドンパチになる。

ゴール人魂なんて言葉は初めて学んだ。フランス人が戦うのは古代ゴール人魂と隊長が喋くる。詩人は入隊していきなり中尉になっているが、どうやって務めたんだろう。軍事の指揮など教養として知っているということなんだろうか。

話が突然面白くなるのは、ドイツ兵の赤ん坊を抱えて戻る件からで、「フランス語を教えるのがドイツ兵への復讐だ」なんて科白、虐められて兜を暖炉に捨てる件、全滅の運命の隊の手紙など。彼は最初に詩人から「告発」の文字を教わる。

そしてロミュアル・ジューベが狂い出してからは一気呵成の名作となった。まずその徴候が凄い。戦場でお前休めと担架が届くのだが、倒れていたジューベは、まるで他に患者がいるかのようにこの担架の片側を持つのだ。カフカ的な狂気の表現があった。戻って「国民の意識調査」だと家々を回るのもすごい。この繊細な演出が剛腕なラストの前振りとして見事に機能している。

そしてクライマックス、地平を埋め尽くした十字架が死者に変わり、死者たちは立ち上がり村へ歩む。サイレント期は幽霊話が硬軟合わせて大量に作られたが、本作は硬派の頂点だろう。画面は上下分割で兵隊のパレードと対照される。犬死にの群れだと字幕で語られる。「自分たちの死は何らかの役に立ったと納得すれば、彼等は眠りにつく」。そして戦争で儲けた奴等たちが「告発」される。戦場の赤ん坊は狂った詩人に「告発」の文字を教える。太陽の告発とは何なのだろうか。箆棒な作品。

(評価:★5)

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