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[コメント] かくて神風は吹く(1944/日)

史上最低のトンデモ映画。ネトウヨ連中にもさすがに評判悪く、カミカゼ吹かないと敗戦という論理が受けつけないようだが、皇国史観とは幕末の朱子学以来カミカゼと共にあるのだから仕方がないのではないだろうか。嵐寛寿郎の特攻自死が最悪。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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冒頭に「君が代は巌と共に動かねば、砕けて帰れ興津白波」と上手い句が詠まれる。元寇は防衛戦争だったのだから、防衛戦争だけが純粋に描かれておれば全うなもの、興味深い作品になっただろう。しかし本作はこの史実を侵略戦争プロパガンダにフル活用する。攻めているのは日本、攻められているのは中国本土である。元寇と正反対ではないか。なんたる倒錯。なぜ誰も疑問に思わなかったのだろうか。

冒頭のロマンスは、五所平がロミオとジュリエットを目指してホンを書いて、いつまでも完成させず監督を首になったその名残なんだろう。撮るのがいやでホンを完成させなかったのではないか。そうに違いない。マトモな人間のすることという気がする。

烏帽子をかぶらないと誓う武将の阪東妻三郎の禿は見栄えがいいものではないし、坊さんの市川右太衛門は日蓮宗の戦争協力をフィルムに記録している。わざわざ開戦を告げに来た元の使者を斬殺してしまうのがひどい。それは戦国時代でもルール違反だろ。斬ったとたんに波がザプンと打ち砕かれるショットが映像的には本作のベストだろうが、誠におぞましい。

「軍費は」と問われて北条時宗の片岡千恵蔵「頑張ろう」。「見通しは」と問われて「勝つ、絶対に勝つ」。いや、元寇の防衛戦なら仕方ないのだろうが、第二次大戦は違うだろ。詭弁もいい処だ。そして戦争準備に奔走する人々に当時が重ねられる。「此時、亀山上皇、御身を以て国難に代わらんと伊勢大神宮に祈らせ給ふ。全国民また異敵撃攘の熱祈を捧ぐ」。そして神風が吹く。味方も船が出せないほど。敵の船はさんざ破壊される。

阪妻は都の方角へ額づく「なんという神業」。知恵蔵唸る「有難きお国柄。第二第三の国難も何も怖るることあらん」。最後に字幕「人毎に限りつくして後こそ吹かめ伊勢の神風」。見事に先の大戦にも神風が吹くぜと云わしめているのだった。何たる滑稽だろう。頑張れば実際に神風が吹くとマジで信じているのだ。こんなこと学校の先生から教わって当時の子供は集団で感動していたのだ。

本作の見処は唯一、余りにも美しい四元百々生のおひいさま。この女優、本作と五所平『伊豆の娘たち』でしか知られていない。まあ、こんな映画に出さされたら普通の人間なら映画界が厭になっても当然だろう。

(評価:★1)

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