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[コメント] ブルー・ガーディニア(1953/米)

上質のサイコサスペンス。アン・バクスター横転時のぐるぐる渦巻きのイメージが白眉で『サイコ』に先行している。収束が弱いのが残念。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







朝鮮戦争に出兵している彼から手紙でフラれたばかりのアン・バクスターが、同居人アン・サザーンへのデートの電話を取って彼女になりすまして出向き、遊び人レイモンド・バーの自宅までついて行って迫られて殺してしまう。1時間半の映画で、ここまでに30分かけている。泥酔したバクスターは火掻き帽でまず姿見を割り、ふた振り目で男が驚愕している姿をその割れた鏡に捉える。バクスターは倒れ、水が渦巻き状に吸い込まれるショットが二重写しになり(『サイコ』(60)に先行している)、さらに渦巻きのアニメが重ねられる。

泥酔していたバクスターは事件の記憶は漠としているが、同僚のコンパクトが割れたとき、砕けた鏡のイメージから自分を疑い始める。このニュアンスが映画を神経症的に色付けしている。事件のことで新聞もラジオも騒いている。手がかりと云われる黒いタフェタ(タフタ。琥珀織り)をバクスターは夜中に門の横に設置された小型の焼却炉(これは一般的な風俗だったのだろうか)で燃やし、折悪しくパトカーが来て夜は使用禁止と注意される。

気障を画に書いたような新聞記者のリチャード・コンテは事件を追うが、水爆実験の取材に行けと上司に命令されている。行き詰って犯人宛てに、放っておけばもうすぐ逮捕されるからその前に電話をくれと新聞に掲載する。バクスターは公衆電話から電話し、受話器を外したまま放浪、その電話を巡回中の警官に発見され、残していたハンカチを押収される。焼却炉の件などと併せ、この辺りの御都合主義が話を弱くしているとも思うが、「折悪しく」の連発の劇だという主張と考えれば納得させられる。

ふたりは深夜に面会。バクスターは友人のことと偽りながら話し、新聞記者は協力するなら最高の弁護士をつけると条件を出す。カフェに卓上のジュークボックス(これが珍しい。なかにはカセットテープが入っているのだろうか)があり、コンテはバクスターの逢引きのときクラブでナット・キング・コールが唄っていた表題歌をかける。古のハリウッドらしくふたりは徐々に親密になり「彼女に必要なのは頼れる人」とバクスターは呟く。 下宿で友人のサザーンがバクスターの当夜の行動を指摘し、バクスターは泣き崩れる。そして翌日、記者に当人を寄越す約束をした喫茶店にサザーンが座っている。ここにいい驚きがある。サザーンが犯人と同僚を庇う展開かと思わせる。

しかし彼女は仲介しに来ただけでバクスターも同行していて自分のことだと告白する。彼女をアイし始めたコンテは躊躇し、バクスターは怒り、張っていた警官に捕まる。密告した喫茶店のマスターが肩を竦めてコーヒー飲んでいる卑屈さが面白い。収束は弱い。現場のレコードがどうとかで、レコード店の店員が真犯人とバタバタと発覚する。ふたりの恋を予感させてハッピーエンド。こういう処理は時代の制約だ。もうひとりの同居人ジェフ・ドネルが可愛い。もっと活躍してほしかった。

(評価:★3)

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