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[コメント] 北京の55日(1963/米)

いわゆる義和団の乱を平定する帝国主義列強の友情を描き、被害者面する加害者の詭弁という気分が蔓延する過去の遺物。この年代までこんなもの撮られていたんだねという点でベトナム戦争による価値転覆の大きさを裏側から証明しており、時代のサンプルとして価値高かろう。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「北京、1900年夏、雨が遅れ不作だった。1憶もの人々が飢えに苦しみ不満が渦巻いていた。居留地には1000人もの外国人が望郷の生活をしていた」。城壁仰ぐ豪華セットで各国の軍楽隊が演奏して国旗掲揚の植民地風景。露店で中国人の対話「中国がほしいという各国の叫びさ」。このシニカルなフレーズは続く全編を批評しているところがあり、だから単なる植民地映画とは思われないのだが、ここがなければ全くの植民地映画になるところを世評のため一言付け足したようにも観える(単に無理解の描写とも取れる)。

紫禁城で夜泣き鳥好きの素晴らしい造形の西太后フローラ・ロブソンは、義和団は神の使いと利用している様が描かれる。西部劇風に行儀の悪い海兵隊が入場、少佐チャールトン・ヘストンは義和団の英神父への水車使った私刑と交渉。義和団は「殺」と大書された壁根城に、白衣の腹に「勝」と書かれた日の丸のユニフォーム、辮髪の荒くたい面々が揃っていおり、ヤクザものと描かれると知れるが、女王の誕生日でダンパ(楽隊は中国人)。中国政府はヘストンに「害のない流浪の芸人」と説明して剣舞を披露させ(ヘストンは偽物だろうと疑う)、各国は挑発だと怒っている。

豪華公使館で英公使デビッド・ニーブンは義和団に対し、強硬策を取れば戦争になる、横暴を耐え忍ぶ方針を取りたいと嫁さんに説明。「中国が目覚めれば世界が震撼する」とナポレオンの箴言を語り合ったりする。ヘストンに米公使指示の北京退去を伝達、それなら呼ぶなって話だが、ヘストンはそれでは生温い、天津では義和団は宣教師やキリスト教徒を皆殺しにしているが政府軍は何もしない。するとニーブンは、義和団は私達の味方だったのに残念だと返しているのはなぜだろう。

翌日、ドイツ大使中国皇太子の立会のもとが義和団に襲撃されたのを見てヘストンは退去中止。ニーブンの拝謁に西太后は処罰すると答えつつ「独は膠州湾を、露は旅順を奪い、仏は南雲や広東省を取り上げました。18の地方のうち13は外国の支配下にあります。港も要塞も外国人が占領し銀行も支配され、古来の信仰すら汚されています。怒りは当然です」。ニーブン返答「しかし義和団の暴挙は決して中国に平和をもたらしません。中国は西洋文化を学んでいます。中国の長所は忍耐です」と評論家みたいなすごいことを云っている。続いて西太后が処刑場面みせ、外国人の24時間以内の退去を命令。外交断絶かとニーブンは心外そうに応えるが、レベルが違うと思う。群衆と義和団の罵声のなかを帰る。

英公使は世界平和のためだと不退去方針、9000人の援軍が北京に向かっているからそれまで耐えると昨日と違うこと云い(米公使はうちは植民地はないと議論から逃げている。これがハリウッド作劇の眼目だろう)、各国従い、脅しのナイフが飛んでくるなかバリケードづくり。銃撃が始まり中国庶民も逃げている。戦争が憎いと子供殺されたニーブンの妻エリザベス・セラーズは泣くが、創造力の欠如ばかりが印象に残る。

中盤、西太后は、我々が動けば戦争になると語る政府軍を緒に戦えと指示。政府軍なはぜか中国の民家や寺院に砲弾を撃ち込んでおり、これはいくらなんでも無茶苦茶だろう。援軍阻止されたとの情報に各国は怒り、中国は無条件降伏を要求。ニーブンは脅しのため反撃に出ようとやや方針転換、弾薬庫爆破作戦。功奏したらしく西太后は平和を訴えろとか云っているが、ヘストン天津行の爆破の件はよく判らない。

55日目の朝(史実は56日目らしいが)、敵軍蹴散らして援軍が到着、熱烈歓迎は白人婦人たちで中国庶民はいない。軍楽隊先頭にしているのは冒頭の露天の対話と呼応しており、せっかく協力できたのに再び列強の対立が始まるとヘストンは語る。列強のユートピアは共通の敵がいたときだけ、敵が撤退すれば無くなる、云いたいのはそんなことに観える。西太后が逃げ出すのは史実通り。清はおしまいだと嘆かせている。

城壁からの火だるまの荷車落下とか導火線の火の追っかけとか神父が放つ多国籍製大砲の命中とか、ハリウッドらしい笑いを忘れぬ防衛戦は籠城を愉しんでいる風。建物はその他も外国人向けの豪華ホテルなど悪印象が残る。ヘストンの、ビザ無効男爵夫人エヴァ・ガードナーとのロマンスが退屈に描かれる。彼女の中国将軍との浮気は二時間半もあるのに全く描かれず、看護師になってモルヒネ運んで射殺されている。義兄ロシア公使のもみあげ男クルト・カズナーは狡賢い男に描かれ続け、理性的な伊丹十三は軍事同盟強化の印象。戦死したジェローム・ソーの混血娘役の吉永小百合みたいなリン・スー・ムーンがヘストンに連れられてアメリカへ向かうのは典型的ならしゃめん映画のラスト。すでに列強支配は長く、中学生ほどの子が中国にいたという証でもある。

(評価:★2)

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