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[コメント] 村の写真集(2004/日)

安っぽいお泪頂戴もの。登場人物が笑ったり怒ったりするのは全てお泪頂戴に奉仕するためだけに限られており、各々の人生などなくてフレームの外では蝋人形になるのではないかと疑われた。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ダム建設に反対している人がおり、山の上で一人暮らしの老婆がおり、田舎暮らしに鬱屈している同級生がいると、せっかく提示したのになぜそのまま放り出すのか。最後の一枚に納まる作業員たちは、ダム建設とどう関わりがあるのかさっぱり判らない。話の細部が点景に留まるから中心も平板になる。村の諸事情を写真に納めれば、魅力的な写真集になっただろうに。

それともこの無口な親父にはそんな才覚はなく、無力な神よろしく現状を鏡のように記録するしか取る術を持たなかったということなのか。アメージング・グレイスをバックに示されるセピア色の写真から、観客は滅びゆく村落がここに記録されたのを感慨をもって確認すればよいのか(『萌の朱雀』のように)。本作にそのような徹底性は微塵もない。あるのは紋切型の親子の葛藤とありえないような解決、及びその装飾品だけである。

本作には画面を統括しようとする繊細さが感じられず、妙に印象に残るのが警察署内に貼られた覚醒剤防止のポスター。写真館の一家の撮影が残っているのを観客は途中から疑問に思っているのであり、発注者である甲本雅裕が気づいていないのは滑稽、なんのために作業に同行していたのだ。故郷が水没するのに恬淡として旅立つ主人公は、人間ではなく鈍間な哺乳類にみえる。このラストはついに不愉快の域に達している。具体的な世界を捨てて抽象的な世界に旅立つこの男に、人を感動させる写真など撮れないことは明らかであろう。

(評価:★1)

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