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[コメント] 二人の息子(1961/日)

70年代まで多量にあった不幸のスパイラル映画の一典型。そのタッチはナルセ=松山の社会派ドラマに似るが、さらにカネに細かいのが美点で、主演女優の悲恋もなく万事カネの話に終始する。シニカルなエリートを演じる宝田明はいつも抜群だった。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







エレベーターのない四階建てアパートの外階段をクルクル降りて宝田明の出勤。海運会社の接待担当。昨晩は三時まで呑んで昨晩は荷受けの相手先陥落。部下の堺佐千夫「宇宙旅行はスプートニク、二日酔いには〇〇」と薬差し出し、会社のツケ利かない店だったと飲食代2万3千円を会計に請求。宝田はお気に入りの女給の世話までしているんだと愚痴り、社内購買部で電気冷蔵庫購入。「一日たったの2円の電気代で文化生活 暑い夏よさようなら」と貼紙してあり、月三千円の月賦、氷三貫目でも三千円と購買部が宣伝している。

長男宝田の父藤原釜足は嘱託の裁判所を、教員時代の教え子庇って検事と喧嘩して辞めて、突然に生活不安。宝田は同居は無理(確かに狭いアパートである)、妻の元バーの女給白川由美も結婚反対された恨みがあり断固反対。宝田は養老院でもと行けばと云って釜足に湯呑投げつけられているが、養老院なら更にカネかかるだろうに。

釜足が画家の旧友志村喬を訪ねる件がある。志村は戦争中の大臣が総理大臣、おかしいと思うほうがおかしい世の中さ、教師が生徒の面倒みるのは明治で終わりだよ(このフレーズが印象深い)と釜足に二千円だけ金貸している。釜足は後日、望月に薦められて返金に再訪するが、会ってもらえず妻東郷晴子に千円包まれて激怒している。

宝田は妹で同じ会社のエレベーターガール藤山陽子にボイラーマン田浦正巳(エレベーターを故障中にしてキスするコメディがある)なんかよせと云い、部長小泉博に気に入られたから秘書課のタイプにと喜ぶ上昇志向。白川もさらに上昇志向。加山は宝田に月三千円仕送りほしいと頼むが白川はすっぱり断る。ドライな役に白川は実によく嵌る。

釜足と同居の次男加山雄三が白川訪ねるとホットケーキ作っている。加山は釣りしている宝田と仕送りするしないで喧嘩。釜足は職安通い。家族はひとつ切りの卵譲り合って喧嘩。釜足の妻望月優子な内職し、秘書課転属になった藤山は小泉に結婚申し込まれた、月給1万5千円のサラリーマンとピーピーしているの真っ平と語る。

白タクの薀蓄が興味深い。加山は父の退職金でクルマ買ってタクシー会社辞めて中古車買って白タク。タクシー会社の社長からまさか白タクじゃないだろうなと云われている。宝田は咎める訳でもないが、終盤の加山の事故後には「法律の目誤魔化してうまいことしようとして」と釜足相手に詰っている。

加山が客と応対している件がある。客は駅前でタクシーと手を振り、加山が停まり、客は白タクだぜ、何でもいいさと捕まえて(なんでタクシーと判るのだろう)加山と料金交渉している。熱海の帰りに風俗嬢原知佐子が乗り、あんた白タクねと云って(なんで判るのだろう)屋台のラーメン喰って温泉マーク。お互い唯だとキスしてよそ見運転して事故。クルマは炎上し一家は15万円の借金抱える。加山は警察帰りに着飾った元カノ浜美枝を大森駅前で目撃している。

そしてついに釜足夫婦は宝田の、電灯灯されない夕方のアパートを訪問のクライマックス。ここで美術はアパートの意外にもボロボロの廊下が強調されている(入口には木製の表札が掲げられている)。釜足はネクタイ締めて、お願いできる義理じゃないんですけどと下手に出るも、白川は過去の不満をぶちまけ、私たちは援助もなく自分の力で切り抜けた、お父さんたちもそうしてと語って退室。しかしこの、白川との結婚時の行き違いという件は、貧乏家庭から脱出したエリートサラリーマン宝田のジレンマという主題をボカシてしまっているように思う。

続いて宝田もお父さんは馬鹿正直、戦後の日本が誠実一本で生きられる世の中だったかと云い、釜足は激怒して帰る。宝田夫婦は大した贅沢もしていないのにと投げやりに嘆く。シケモク我慢していた釜足は望月に煙草を買いに行かせて電車に自殺未遂。藤山は純情な田浦の熱心な誘いを無視して小泉とクリスマスのデート、その帰り道で田浦に一緒に死んでくれとナイフ見せられて逃げて踏切で轢死。通夜に来て宝田を加山は追い返す。この辺りの不幸のスパイラルは殆どやり過ぎ、しかしこういう映画は70年代まではよくあったものだ。望月がいるからか、元祖は『日本の悲劇』かと思ったり。

火葬の帰り、釜足は職安傍の目をつけていた代書屋に、耄碌した夏木順平の代わりに自分を雇えと売りこんで職を得る『自転車泥棒』のようなイロニー。ここはもの凄く、本作は全くハッピーエンドではない。夏木対釜足はこの後展開が始まるに違いなく、さらに深刻だっただろうと思わざるを得ない。

宝田は「サラリーマンだって何かできるような気がするんだ」と白川に詫びて10年かけて溜めた貯金の20万円を加山に渡すと告げて冒頭と同じように階段降り、白川もいつものように笑顔で送り出す。この決断は美しく、エリートサラリーマンってこういう決断をする瞬間は稀なんだろうと思わされる。まあ実家のことだから当たり前と云えば当たり前だが、それを云えば全編そうだ。藤山の事故現場の踏切で宝田が加山に通帳渡して笑い合う、カネで解決する兄弟の不和。ということで本作は万事、見事にカネの話であった。

(評価:★4)

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