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[コメント] エノケンの青春酔虎伝(1934/日)

♪ボクラは嬉しいサラリーマン、いつもいつも上機嫌、机の前で居眠りしてりゃ、サラリーは天から降ってくる。エノケンはチークボーイ(とは何だ)、社長の倅、昼から退社してデート。戦前ですでに植木等である。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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笑いは総体他愛がなくハリウッドなら1910年代レベルで、なぜこれが面白かったのか不思議な気がする。エノケン一座はまだウォーミングアップなのだろう。序中盤はともかくやたらお姉さんが大量に登場する。冒頭、大学(立教っぽい)から白いロングスカートに白いベレー帽の女が大量に飛び出して来て、ウクレレ弾いて歌い踊り、体操着になってバスケットボール(?)も始める。女学院と看板が出ている。♪プランタンでランデブーなどと唄う二村定一エノケンも、怪獣映画の科学特捜隊みたいな奇怪なユニフォームを着ているが、どうやらこれは大学の体操着らしい。

その後も女たち大量登場を繰り出し、順に滑り台を滑り降りたり横一列に並んで郵便を受け取ったり。映画は女を大量にみせるのを主目的としていたのだろう。吾妻ひでおの「女だらけ」が想起される。エノケンは女子寮に忍び込んで舎監から逃れるために写真屋に変装(この堤真佐子からモナリザの画を貰うモチーフは終盤に再度使われて意外性があった)、鬼舎監武智豊子はタマネギみたいな髪型で芸風が戦後と変わらない。「この部屋は男の臭いがしますね」。中盤も女と遊ぶのなんかイヤだよと断るエノケンたちを姉が無理矢理連れ込んで女たちに揶揄われている。

大学時代の落第の危機、教授に取り入り、大学教授丸山定夫の家の座敷で出されたカステラ(遠慮して食べていない)を教授の息子がひとつずつ取って行くギャグが面白い。そして卒業して後半はサラリーマンの章。男女社員たちが唄う歌が凄い。♪ボクラは嬉しいサラリーマン、いつもいつも上機嫌、机の前で居眠りしてりゃ、サラリーは天から降ってくる。エノケンはチークボーイ(とは何だ)、社長の倅。すでに植木等である。

堤真佐子にフラれて千葉早智子(本作ではやたら美人)と見合い結婚、エノケンは愛妻家になり、千葉が丸髷に結ったと悦んで歌い踊る。モナリザの画で千葉は堤に嫉妬して喧嘩して、仲直りして気持ちよく終わる。終盤の二村のビアホールでの喧嘩は細かい編集が上等で意外にも迫力。冒頭と収束もそうだが、エノケンが夫婦喧嘩について延々キャメラ目線で観客にレクチャーを求める件がある。アイロンかける千葉の横、箪笥の上で霧吹いているのは加湿器だろうか。すでに加湿器があったのだろうか。如月寛多の右翼青年役はこの第一作から始まっている。エノケン30歳。

(評価:★3)

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