夏純子の森繁痴漢のドタバタ（痴漢されて満足している森繁の顔が素晴らしい）から花札コイコイ、デパートのスリ、市原悦子の財布を掏るスリから財布を取り返した夏が捕まる、という件のロジックが面白い。そんなこんなでいつの間にか夏純子が新宿芸能社に加入している切符の良さ。江戸っ子だなあ、虚構だがなあ、愉しいなあ、という人情喜劇の人物として、夏純子は最高の女優だった。そして彼女は岡本茉莉となんと正反対だろう。黄緑のセーターと赤いスカートやぼったい桃割れが素晴らし過ぎる。

身売りさせられた岡本を救出する米倉斉加年は紫シャツに鳥打帽。火炎瓶投げる逃走は花沢徳衛の頼りない警官と一対にされている。夏と米倉の花屋敷デートは「寅さん」の歌が流れ、戦災孤児の告白、脳梅毒で死んだオカマの件に最高の味がある。彼の遺骨抱え、金貰ってスゴみ、指詰め、八丈島で百姓になり、夏を迎えに来る。本作は米倉の映画の代表作だろう。夏と結婚する寸前だった小沢昭一は便所で泣いて終わる。不憫が似合う人である。

終盤は森崎らしく話が横滑りし、寿司屋の久里千春、荒砂ゆきの、板前植田俊（懐かしい俳優だ）との三角関係、風呂屋で出刃包丁の乱闘などあるがここがイマイチ。脇が主役を喰う映画は『煙突の見える場所』など思い浮かぶが、あのようには上手くいかなかった。ただ岡本と出来たというオチは芳しく、いつもの人混みで出前の岡本アップのラストシーンが美しい。

今回の妻は市原悦子、誰が女房でも八方気を遣う森繁。新派劇だね、ちょうど雪も降っていると庭を眺める。この頃森崎の方法論は新派劇で固まり、以降微動だにしなかった。森繁の一言はその宣言だっただろう。新宿芸能者はドルショックで不景気と云われる。