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[コメント] 悲しき口笛(1949/日)

松竹時代のひばり映画ではこれがピカイチだろう。ラストのショーで名高いが津島恵子のダンスも素敵。ヤサグレる菅井一郎も素敵。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







場所は横浜、浮浪児もので、彼等は大坂志郎たち仕事にアブレた港湾労働者に混じって川沿いの空き地でゴロゴロしている。冒頭、原保美と路上のシケモク取り合いする少年の件が家城らしくてとてもいい(最後に少年が原にシケモクを進呈する)。警察の取り締まりが入ると子供たちは逃げて行くが、大人たちは逃げずに逃げる子供に頑張れよと声かけたりしている。この冒頭が強烈に印象に残る。

後半に再登場するこの労働者たちは、50人ほどが夜も同じ場所で眠っているのも驚き。彼等はひばりの懇願で津島救出に向かうのだった。家城は本作の翌年松竹をパージされているが、浮浪児や港湾労働者の映画は当時は誰でも撮ったものだ。

子供とはいえ美空ひばりは破れたシャツの胸はだけていて、パンツ丸出しの子役凸ちゃん同様困ってしまう。土管で寝泊まりしていて、津島恵子に救われて菅井一郎と津島親子のバラックに居候するが、後半には家が焼けて菅井と土管生活に戻り、土建屋が土管持って行くのに舌出して抵抗している。土管は大人の腰ほどの高さがある。あれは水道管なのか下水管なのか。当時の施工はもっぱら失対事業のはず。

菅井と津島の親子のバラックの傍には空襲に耐えた壁らしき煉瓦積のアーチが残っている。海も見える借景のロケ。私的ベストショットはひばりのブギ(「ブギにうかれて」)に合せた津島恵子のダンスで、津島が無茶苦茶可愛い(クロサワ『野良犬』とえらい違いだ)。この件、ひばりがヴァイオリンを玩具にして菅井一郎に怒られてしょげたシークエンスになってしまうのが残念。

この歌を後半、ひばりはクラブで飛び込みで唄い、店主が摘み出すかと思いきや悦んでリズム取り出すといういいショットがある。クライマックスの有名なひばりのシルクハットでの主題歌の件もいい演出があり、ベンチで抱き合った男女(当時の新風俗に違いない)見てひばりがシルクハットを目深に直して見ない振りするのが笑える。

ヴァイオリンを提琴(ていきん)と呼ぶとはじめて知った。やたらプライドの高いヴァイオリニストの菅井は、病に倒れて目が見えなくなり、オールバックでサングラスかけてヤサグレて、ランプこかして失火。映画はバラックを景気よく燃やしている。菅井はジャスなんか弾けるかと云いながらひばりの主題歌には伴奏つけている。この演歌にしか聴こえない主題歌も当時はジャズと呼んだと云うのも発見。ポピュラーは全部ジャズだった。

後半は津島が密輸船に軟禁されて港湾活劇になり、ひばりの兄の原保美が当然のように乗りあわせていて徳大寺伸と殴り合いして津島を救出。原が頼った神田隆はダムの管理人をしていて、ハッピーエンドのラストは全員がダム湖に浮かべた帆船に乗って遊んでいる。ダム管理、山の発電所の主題を家城には『姉妹』(55)で掘り下げることになるだろう。兄が作った唄を妹が唄って再会というネタは昔の映画では頻出。再見。

(評価:★4)

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