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[コメント] 宣戦布告(2002/日)

右翼の強迫観念を映像化して後半になるほど間抜けになりついには見事に空中分解してしまうのだが、その強迫観念だけは予言的中なのだから笑っちゃう。世の中が下手糞なSFじみて行くのも仕方ないのだろう。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







北朝鮮は1994年にNPT脱退、同年に米と「核枠組み合意」を締結。2003年にNPT再脱退。同年に「6カ国協議」開始。2005年に全ての核兵器廃棄の共同宣言を採択したが、2006年に最初の核実験実施。だから本作の製作当時、北朝鮮は核は保有していない。相手国は映画では北東人民共和国と字幕が出る割に通信をハングルでしているのが間抜け。中国は変名でなかったりする。

敦賀の話。隣国の難破を装った侵入に最初に応対するのはSAT(警察の特殊急襲部隊)。射殺許可命令が解除された直後にひとりが撃たれ(「死ぬなあ」と仲間が抱きかかえたりしているが続けて撃たれたらどうするんだろう)、政府はさっさとSATはここまで、自衛隊の治安出動、と一致。引き続きテーマである有事立法の不備が語られる。これがいかにも不自然で。続けてSATの対応でいいし、射殺許可を出したらいい。それなら何も法的にややこしい自衛隊を出す必要などないのだ。SATをさっと諦めるのは、自衛隊出動を描きたいがための詭弁に見える。

編隊された自衛隊特殊部隊の森の行進をモニターでみて「軍隊はやっぱりこうあるべきですなあ」と感慨を漏らす防衛庁長官石田太郎という戯画も含みつつ、撃ち合いが始まり、「中隊長に射撃許可とれ」みたいなやり取りが交錯する。こんな戦争ってないよね、と観客に思わせるに十分だ。自衛隊の海外派遣でもこんな細々と指示出しているのだろうか。

戦闘中に手榴弾の使用申請、官房長官の佐藤慶が部下に「手榴弾を使用できる合法的な解釈を考えろ」。そして部下が六法全書を繰りはじめ、首相の古谷一行は慨嘆「この国は真面に喧嘩もできないのか」。そんなもの、現場に出すまでに考えないのがどうかしている。現場に出せないのであればSATに引き続き任せればよかっただけの話だ。本作は前提が破綻している。こういう為にする演出はヒステリックでいけない。

アメリカは非公式の安保理(というのがあるんだ)で相手国と交渉、また金の無心が来るだろうと佐藤慶が呆れる。アメリカは軍隊の協力要請してきて集団的自衛権の絡みで断ったと古谷が云う。アメリカは北の核を懸念しているという予言はその後正解になった(ただし当時は保有していたという見識は勇み足だった)。外務省=アメリカで官邸は煙たがっている、という描写はリアルなんだろうか。

終盤、相手国が核ミサイル発射準備。これはリアルポリティックスとしては当時は間違いだし、近未来SFとしてなら判るが話が唐突過ぎる。劇映画としては終盤の加速は定跡通りなのだが、政治としては理屈なしでは無茶だ。しかししかし、「誰が宣戦布告をしたというのだ」と唸る佐藤慶を見ると、そういえば宣戦布告をしない戦争もあったと思い出されたりするのだった。

それに対して総理ができたことは、敦賀の乱闘に係るヘリからのバルカン砲発射許可なのだ。バカみたいだが、それでゲリラが制圧されて各国の戦争準備は解除される。これはギャグなのだろうか。知らずに後ろ足で導火線踏んで爆破しなかった爆弾みたいな。最後に夏八木勲が偽情報流したのだと種明かしをするのだが、これは科白だけで具体的に何だったのかまるで描かれないのは、手抜きもいい処だ。そんなオチのないオチではなく、平和憲法があるから日本が滅ぶ姿でも描いたほうが、右翼的には生産的ではなかったのだろうか。

佐藤慶の官房長官が、情報を米軍にだけ流していると防衛庁長官を怒っているが、この断片は何だったのだろう。そしてSATに予備費から予算つけてやるみたいな指示を出すが、渦中になって何の予算をつけるのか。これもよく判らない(特勤手当だろうか)。これに抵抗する秘書官の杉本哲太が良い役ということはよく判るが。古谷一行(小泉の想定の由)の総理を切る、ドンの財津一郎に土下座する、みたいな古の自民党派閥争い噺。小泉がぶっ潰す前の自民党なのだろう。財津一郎がドンかあと、この配役には感慨を覚えた。

佐藤慶は杉本が帰化していると知って内調の職から外している。これは、杉本もスパイという前振りに違いないと盛り上がるのだが、結局違ったらしく最後は元総理にお仕えして復職みたいな展開で肩透かしに終わった。元韓国人、元北朝鮮人を総理秘書官に置く意味が映画では別段問われない。この処理も不足感が残った。

夏八木は内閣情報調査室の室長。『新聞記者』(19)で伏魔殿振りが描かれた内調が和気藹々の職場として描かれる倒錯感が味わえる。戦争映画としては『シュリ』や『JSA』の人気に当て込んだ企画でもあったのだろうが、北朝鮮兵の非情なアクション振りは完敗。細かくカット割れば迫力が出るだろうというだけの閃きのない演出が貧しい。非情な夏木マリさんだけは、流石に小さな出番でも印象を残すものだ。スパイがあんな派手な格好して空港歩くのかは知らないが。

自衛隊がゲリラを「制圧する」という云い回しは機動隊と同じで、国内外で同じ使い方をするのだから不気味。見処は多岐川裕美の色っぽい総理夫人。ラグビーボールもきっとエロいサインだったのだろう。

(評価:★2)

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