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[コメント] 復讐者に憐れみを(2002/韓国)

苛烈であるが故に、もっとも反語的に道徳的な映画のひとつ。因果応報を「100%」と断定するチャヌクの演出にはケレンだけでなく厳しさも貫かれている。血まみれの、やさしい世界に憐れみを。優しい悪魔たち。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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チャヌクの演出で特徴的なのは、観る者を拷問にかけようとするかのように苛烈な暴力の過程を見せつけながら、時にその過程の一切をとつぜん省略してしまうことである。

臓器密売業者の惨殺などの暴力がふるわれる過程を見せつけるシークエンスでは、逡巡や動揺といったものはほとんどない。また、女の子の溺死、リュの拉致・遺体損壊など、決定的なシークエンスでは、突然それらが「起こってしまった」結果が映し出される。

つまり、これらの暴力の応酬と死は良心や後悔といったもので回避できるものではなく、単純に、否応なしに「起こってしまう」のだ。それらの多くは、「死」という結果にいたり、後戻りすることが出来ない。

むしろ、「お前はやさしいから、俺がお前を殺す理由もわかるよな?」とガンホに言わしめるように、「やさしいから」それらは起こってしまうのである。「正義」といった胡散臭い言葉よりも、「やさしさ」による負の連鎖を前にして感じる虚しさはことのほか大きい。ここに「憐れみ(sympathy)」が生じる。しかし彼らはペ・ドゥナに言わしめるように「100%」裁かれ、死刑を宣告されるのだ。

血まみれで優しい世界で息絶えるペ・ドゥナのうつろな目。何も見ていないその目は、復讐の連鎖の遙か先を眺めて絶望しているようだ(ペ・ドゥナのアナーキーな投げやり感が絶望の裏返しのようで、とても巧いと思う)。そして、エレベーターでつなぐ手の冷たさの非情と哀しみ。

聴覚障害という設定が、たとえば良心といった内面と深く向かい合うためであったとするなら、この点の彫り込みは甘いという印象を与えることは否めない。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)おーい粗茶[*]

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