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[コメント] 遠い空の向こうに(1999/米)

「誰かがボタンを押さなくちゃロケットは飛ばない」んだよ!!
田邉 晴彦

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







このセリフ、最後のシーンで、ホーマー少年が父親に向かって、ロケットの発射ボタンを押してもらうシーンで言うセリフなんですが、この一言に本作のメッセージ、観客の心を動かすポイントがあると思います。

この映画に登場するホーマー少年は、周りの人々から見えればまさしく“ロケット”のような存在でしょうね。大人たちには炭鉱、子供たちにはフットボールしかない田舎町で彼は育ちますが、ふとした切欠から独学に近い形でロケット工学を勉強し、仲間たちと実際にロケットを飛ばし、全米科学コンテストで優勝します。劇中では描かれませんけど、その後は奨学金で大学にすすみ、一流企業(NASA)に入り活躍する…という経過をたどるわけですが、そんな彼の人生はまるで、10月の空に打ちあがるロケットのように上昇(成功)していくイメージを与えます。

そして、その推進力となったものは、まぎれもなく周りの人々の助力なんですよね。

最初にこの町で炭鉱で働いて一生を終える以外の選択肢を提示したライリー先生や主人公が少しセルフィッシュにすぎる態度をとっても支えてくれた三人の仲間たち、ロケット製作を手助けしてくれた炭鉱夫たちやどんな時でも変わらぬ態度で勇気づけてくれたガールフレンド…たくさんの人々がホーマー少年を愛し、支え、鼓舞したからこそ、彼はロケットのごとく、「外の世界」に向けて飛び出していくことができたはず。そういう意味では、彼らはホーマー少年が夢をかなえる過程において、ロケットにおける“燃料”のような存在として描かれます。

で、も、

そもそもその最初の原動力になったものはなんだったのか。つまり、ホーマー少年をロケットの世界へとモチベーティブしたものはなんだったのか。

それはきっと、父親への反発心なんですよね。

彼は自分を認めてくれない父親を時に憎み、時に激しく非難するんですが、その根底には父親に対する尊敬と求愛の心が常にあった。「父親に愛されたい」「父親に認められたい」でもフットボールはできないし、炭鉱の生活にも希望は見いだせない…どうすれば父親に愛され、認めてもらえるだろう…そんな悶々とした生活を送っていた彼に一筋の希望をみせたのが、まさしく「遠い空の向こうに」みたロケットの輝きだったのではないでしょうか。

だから、彼は最後のシーンで自分を愛し、支え、鼓舞してくれた人々に感謝の言葉をささげた後、ロケットのボタンを押す役を父親にお願いするんです。それは彼にとって、自分という“ロケット”を人生という“遠い空”に向けて高く高く飛ばすための“ボタン”が父親であったということを、最も感動的な方法で示唆しているように僕には思えます。

(評価:★5)

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