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[コメント] キャピタリズム マネーは踊る(2009/米)

かつて小泉・竹中にまんまと騙され、これからも騙され続け、絞られ続けるかもしれない総ての人々に捧げる、資本主義へのアンチテーゼ。今こそ、人々に力を。
サイモン64

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







2009.12.14 TOHOシネマズ梅田で鑑賞。毎月14日はTOHOシネマズデーなので料金1000円であり、劇場はなかなかの混雑具合。私が見たのは4番シアター18:00の回。通路際のC-3に座って見ていると、開演15分ごろから高いびきがし始めた。私の右隣のまた隣、C-5に座っているおっさんリーマンが、腕組みしながら完全に寝入っているのである。そんなに退屈するような映画でもないのに不思議なおっさんであった。

〜〜〜

マイケル・ムーア監督は、映画の冒頭、かつて滅んだローマ帝国になぞらえて、アメリカの腐りきった資本主義を批判する。この国の根本にはキリスト教という倫理規範があり、この国の根っこにあるのは民主主義ではないかと。

彼によれば、三流俳優であり企業のスポークスマンであったロナルド・レーガンを、ウォール・ストリートが手に入れた時から、ゆきすぎた資本主義が台頭し始めたのだという。富裕層の税率は下がり、企業は好景気にも関わらず大量の人々を解雇し、ほとんどの富を独占する1%の富裕層と、持たざる99% の貧困層を生み出したという。

その成れの果ては、先のカトリーヌ台風でテレビカメラが映し出した貧しい人々だった。彼らは車も持たず、富も持たず、彼らの住む地区は満足に治水整備されることもなく、台風とともに水没し、彼らは文字通り棄てられた。棄民政策の象徴が世界に向けて放映されたのだ。これはまさにアメリカの恥部であったし、小泉・竹中政策が順調に進めば、我々の国日本でもこのような光景が展開されるところだったのだ。

持たざる99%は、確かに富は持たないが、選挙権は金持ちと平等に持っている。数の上では金持ちより貧民の方が多いのである。米国人の、日本人のバランス感覚が危ういところで働いた結果、様々な "Change" が社会にもたらされた。

だが、これは過渡期の状況に過ぎない。我らが日本の現在の首相は、鳩が豆鉄砲食らったような顔して、お母ちゃんから子ども手当を月に1500万円も貰っちゃうような富裕層である(しかも税金払ってなーい)。

今後も「自由競争」の美名のもと、世界中で、特にBRICSでは様々な格差が生み出されるはずだ。「がんばれば誰でも金持ちになれるかもしれない」というのは、とても甘い言葉だ。ごく僅かな勝者になることを夢見て戦うことも大事かもしれないが、お互いをいたわることはもっと大事なのではないか?

ブッシュ政権に巣食っていた、サマーズ、グリーンスパンといった役者の面々を見ると、つくづく悪人面をしている。アメリカは、世界は、こんな連中に騙されていたのである。そして私たち日本人も小泉・竹中に騙されて、とんでもないことになりかけていたのである。いやもうなっているかもしれない。

実際、日本だって能力のある若者が職にあぶれ、ちょっと不景気になったら免職された派遣労働者が街にあふれ、若い世代が将来に希望をもって生きることができない社会が出来上がってしまった。車も売れなくなって、自動車会社は自縄自縛の状況である。ザマミロ。

今、私たちにできることは、心の豊かさを取り戻すための努力ではないのか?日本人は特定の宗教を信仰してはいないが、人の気持を思いやる心はちゃんと持っているはずだ。今こそ声をだすべき時が来ていると思う。人より多く取ったら、困らない程度残して、あとは分け合うとか、そういう気持ちがもう一度必要な時期にきているのではないかと思う。

「アメリカの松村」ことマイケル・ムーア監督の作品は、『ボーリング・フォー・コロンバイン』『911』『シッコ』などなど、ゆきすぎたアメリカの資本主義と為政者を批判する精神が根底にあるが、今度は正面から資本主義批判を展開している。

映像やインタビューを見ながら、アメリカはすでに不治の病に犯されているかのように感じる。大学を出るために一千万近い借金をするってのはどういうことだ?国立大学に行けば学費は安いんじゃないのか?アメリカでは教育を受ける機会まで完全に金次第なのか?昔雑誌「ポパイ」が1980年代に紹介していたアメリカはそんなんじゃなかったぞ...

過去の映画の断片、ドキュメンタリー、ニュース映像を巧みにコラージュしながら、一握りの金持ちを優遇し、残りは絞って捨て去るアメリカ社会の病理を浮き彫りにする技法は巧妙であり、あやうく日本も同じ轍にはまるところであったとヒヤヒヤした。

映画の中で少年院を民間委託した例が紹介されていたが、営利追求のために軽い罪で収監した上、刑期を勝手にどんどん伸ばしちゃうという現実が描かれていた。あれは本当にホントなのか?日本だってもうちょっとで郵政民営化しちゃうところだったんだぜ?その勢いで、「改革なくして成長なし」とかなんとか言いながら、どんどん官業の民営化が進んじゃうところだったんだぜ?あぶねー。

特に印象的な場面は、キリストの口を借りて、資本主義社会への皮肉をいわせるシーンで、これはかなりの爆笑ものなのだが、何故か大声で笑わないのが日本人の残念なところだ。

最後に、ブッシュの前でエルビス・プレスリーのモノマネをしている小泉元首相の映像を流さなかったのは、マイケル・ムーア監督の武士の情けというか、本当にこれには感謝したい。あまつさえ、日本には国民健康保険や高い教育があると褒めてくれたことに、もっと感謝したい。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)林田乃丞[*]

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