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[コメント] おじいちゃんはデブゴン(2015/中国=香港)

サモ・ハンの盟友たる大物たちが賑々しく画面を彩る傍ら、しれっとエディ・ポンまで招かれているのは微笑ましいが、この人の先輩映画人からの愛されぶりって何だろう。サモ・ハンの健在を示す「サモ・ハン is BACK!」二作は、一方で、ダンテ・ラムの絶好調と併せてエディ・ポン時代の到来を印象づける。
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**ネタバレ注意**
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しかし私の贔屓はやっぱりアンディ・ラウで、ほかのゲスト出演者たちと同じ程度の扱いかしらと大して期待もしていなかったところ、思いのほか出演シーンが多くて嬉しい。とりわけ前半部はほとんどアンディの映画だと云ってもいい。

さて、この作における年老いたサモ・ハンのアクションを見る限り、どうやら格闘の勝利にとって最も重大な要素は「筋力」でも「速度」でも「四肢の可動域」でもなく「動作の正確性」であるようだ。彼は相手の攻撃を正確に防ぎ、しかる後に(速さ・手数・強度が往時より劣ったとしても)正確に打撃を叩き込み、関節に圧力を加えることで敵を倒す。

しかし、この「正確さ」は、物語およびサモ・ハンのキャラクタ造型の根幹を成すところの「認知機能の減退」すなわち「物事を正確に把握できないこと」を残酷に対照する。彼が敵陣に殴り込みをかけたのは、云うまでもなくジャクリーン・チャンを救出するためだが、もとより彼女は攫われてなどいなかったのだ。「一線を退いた『老兵』がやむを得ず暴力の連鎖に復帰する」というクリント・イーストウッド許されざる者』でポピュラリティを得るとともに完成を見た説話類型は、ここで(『マイ・ボディガード』であるや否やにも増して)「老い」の切実にさらに踏み込むことで暴力の前提さえも覆し、自壊寸前に尖鋭化している。観客は激しい動揺を覚えずにおれないだろうが、それでもなおこれが奈落に落ちることを踏みとどまって娯楽映画としての身を保つことができたのは、「悪役が(たとえ少女を攫っていなくとも、それとは無関係に打倒されるべき)悪である」という以上に、おそらくはサモ・ハン自身の愛嬌がためである。やはり彼は自らを最もよく弁え、かつ最もよく演出している。

(評価:★4)

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