確かにこれではまだまだ厳格さが足りないかもしれないが、「ドアー」をはじめ「バイク」「自動車」「列車」「空」「煙」「工場」「写真撮影」「斜面」「パレード」といった映画にふさわしい細部をちりばめながら印象的な画面を生み出す演出はまったく見事だ。庭にぽつんと置かれたドアー、その向こう側に人が「消え去る」というマジカルな瞬間の感動はなんと云い表せばよいのだろう。他にもポスターに隠れてしまう少女や空一面に舞い広がる伝書鳩など忘れがたいカットがいくつもあり、唐突な音楽とダンスによってもたらされるラストカットのでたらめな幸福感には涙を禁じえない。

ドアー開閉記録に挑むジャン＝フランソワ・ドヴィーニュが映画オタクで熱狂的なプレスリー・ファンであるという設定の必然性の欠如や、昏睡状態に陥った彼を目覚めさせるためにプレスリーのそっくりさんを呼んでくるというくだりのオフビートな可笑しさも堪らない。