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[コメント] ROCKERS(2003/日)

室内花火、スプリンクラー、そして→
林田乃丞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 最後のライブシーン、観客がビニール傘を広げて左右に揺らし始めたシーンで涙が止まらなくなった。

 ロックなんてブルーハーツくらいしか知らずに育った私だが、ハタチを過ぎてから縁あってよく友人のライブに足を運ぶようになった。ひとつのバンドを長く見ていると、徐々にファンが増えていくのが自分のことのように嬉しくて、誘われもしないのに打ち上げに参加したりもした。

 それぞれのバンドにそれぞれのファンがついているわけだが、ファンというのはバンドのカラーを色濃く踏襲しているもので、ひと目見ただけで誰がどのバンドのファンか判るようになった。それは服装とか化粧とかいう話でなく、彼らがお目当てのバンドに「同類だと思われたい」と必死に努力することによって発するオーラのようなものだ。

 だから、(ここからはあくまで私の主観というか思い込みだが)カッコイイけどいけ好かないバンドのファンにはやっぱりカッコつけでいけ好かないファンが付くし、ストイックさや反骨をウリにしているバンドのファンはどこか人付き合いがよくなく自分の世界に陶酔するタイプが多かったように思う。そんなバンド同士が対バンするライブハウスなんかでは、ファン同士の小競り合いも珍しくなかった。「音はいいけど、ファンの質が悪い」などといわれるバンドも数多く見た。

 この『ROCKERS』のライブシーンで私が感動したのは、その「ファンの質の良さ」だった。フロアを埋めたファンのあの一体感。それはそのままROCKERSが目指したスタイルを反映しているのだろう。

「みんなで楽しもうぜ!」

 客がひとりしかいない場末のライブハウスから始まってあれだけのファンを獲得するまで、彼らはきっと一貫してそのスタイルを守ってきたのだ。

 特にインディーズの場合、そういったスタイルはファンに受け入れられにくい。なにしろ相手は、レコード屋にもテレビにももっともっと上質の音楽が溢れている中、あえてインディーズバンドを追いかけているような連中だ。彼らは往々にして独占欲が強く、ファン同士の横の連帯を好まない傾向があるというのが私の実感である。そんなファンに対してROCKERSがどれだけ強い説得力を持ってメッセージを送り続けてきたか、どれだけファンを大切にしながらステージを重ねてきたかという証明が、あのビニール傘のシーンに集約されていたように思えるのだ。

 演奏後、静まり返る通路に姿を現したROCKERSは拍手で迎えられた。そのことがたまらなく嬉しかったが、自分の人生を振り返るに少し妬けたのもまた事実である。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)ルクレ ねこすけ[*] ボイス母[*]

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