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[コメント] ハッシュ!(2001/日)

彼らの孤独や「何かうまくやれない感じ」には共感するし、演出や芝居は個性的で楽しい。だが、「子供をつくる」話なのだから、とことん「子供」と向き合うべきだったと思う。
林田乃丞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 いわゆる常識を司る存在として登場した秋野の話にいちいち首肯しながら見ていたら、いきなり旦那に殴り飛ばされてびっくりした。

 この映画に登場する「子供」というワードはまるで何か記号のような取り扱いだが、「子供」は当然ながら単なるワードではなく、人格を持った人間として生まれてくる。そして数年か十数年か経つと、「自分はどこから来たのか」「なぜ私は存在しているのか」といったことを思い悩む思春期を迎えることになる。

 そのとき、きっと「子供」は、秋野以上に彼ら3人を糾弾するだろう。「なぜうちは他とちがうの?」と、常識を盾に彼ら3人に迫るだろう。その糾弾は無神経で、無遠慮で、何の経験にも基づかない稚拙な空論で、しかしこれ以上なく切実なものになるはずだ。あるいは金属バットを振り上げているかもしれないし、自らの手首にカッターナイフをあてがっているかもしれない。親になるということは、そういう「子供」と向き合うということだ。彼らにその覚悟があっただろうか。

 朝子は秋野の糾弾に対して逆上し、次に失神した。彼女はあの場面で、常識によって打ち砕かれた「被害者」として描かれている。だが、自分たちの「子供」がそうなったとき、彼ら3人は被害者ではいられないし、同じように逆上すれば「子供」を殺してしまいかねない。

 シングルマザー、ジェンダー、性的マイノリティ、何でも結構だが、そんなことは生まれてくる子供には一切関係がないし、育児はそんな主義主張嗜好とは別次元の普遍的な苦痛を伴うはずだ。この映画にはそういった苦痛に対峙する覚悟は一切描かれないし、想像すらしていないように思える。

 つまりこの物語は本気で子供をつくる気がないのか、根本的に想像力が欠如しているのかのどちらかで、どちらだとしても私にとっては面白い作品ではありえなかった。

 スポイト買ってきて「子供つくろーね」って言い合うことで精神の安寧が保てるなら、そりゃ別に言ってりゃいいと思うけど、そんなのは一時しのぎでしかないんじゃないの? と、そんな風に思うのだ。

(評価:★2)

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