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[コメント] かぞくのひけつ(2006/日)

陽気なギャグが地球を回す
林田乃丞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「がんばりや!」「お前もがんばれよ!」というシーンがすごく好きだ。このシーンは、映画の舞台となった大阪十三の町に「笑い」が文化として深く浸透しており、その「笑い」によって人の心がほんの少し救われる様を描いている。

 きれいなお姉さんに「がんばりや!」と言われて自動的に「お前もがんばれよ!」と切り返せる男子高校生はおそらく関西地方にしか生息しないだろう。この一連の会話は言うまでもなくジミーちゃんのギャグなのだから、発せられた瞬間には意味を持たない。ただ「おやくそく」のやり取りが成立した安心感に頬が緩み、気持ちが温かくなるだけだ。そしてその後、その言葉を互いが必要としていたことに気付く。少しだけマシな気分になる。本当にいいシーンだし、関西という舞台でしか成立しえないシーンだろう。

 というか、もともと他の地方では日常生活の中でギャグを言い合うという習慣がない。目の前の誰かを笑わせることがその人の励みになることを、関西人はほとんど本能的とも言うべきレベルで理解している。そして、誰かを笑わせることに大きな価値を見出している。だから自分の心を軽くしたいとき、そして相手を慮ったとき、彼らはギャグのやり取りをする。そうして笑い合い、励まし合う。「がんばりや!」と言えば、必ず相手が「お前もがんばれよ!」と言ってくれるという信頼感があるということは、つまり、自分が「がんばれ」と言ってほしかったら、誰かに「がんばれ」と言ってみればいいということだ。「笑い」が生活に浸透していると言ったのはそういう意味で、この状態は「笑い」という大衆芸能が文化として理想的な形で機能している証左ではないかと思う。

 この映画はギャグで観客を笑わせる映画ではない。「笑い」が生活の中に根付き、息づいている人々の日常を描いた映画だ。だからテント師匠のテキトーな歌で映画が幕を下ろしたとき、私たちは暖かい気持ちになれるんだ。漫才師の息子が「笑い」と社会のつながりを盛り込んだファミリー映画を作ったことはすごく感動的な出来事だし、そんな監督の背景を差っぴいても実に面白い作品だった。何より、冒頭に記した一連のギャグを生み出したジミーちゃんは、コメディアンとして本当に大きな仕事をしたと思うよ。★5。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)水那岐[*]

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