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[コメント] ナイロビの蜂(2005/独=英)

映像は相変わらず鮮烈だが、前作『シティ・オブ・ゴッド』に魅せられたからこそ、私の中で渦巻く不謹慎な不満……。
林田乃丞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 上質だ。その志は清廉にして屈強。貧困蠢くアフリカの風景は観る者の胃袋に重くのしかかり、子供たちの笑顔は否応なく胸に突き刺さる。まさに一級品と呼ぶに相応しい骨太の社会派映画だろう。

 また一方で、一組の夫婦の愛を描いた映画としても秀逸だ。妻の意思の強さを愛し、その意思を尊重したからこそ失ってしまった大切な存在。彼女が生きて、笑顔のひとつさえ見せてくれれば簡単に氷解するような「浮気の嫌疑」に対する悩み、そして明らかになる妻の本心。その遺志を貫き、妻への愛に殉じる主人公……切なく、美しい物語である。正直、ちょっと泣いちゃったりもした。

 だが、もうひどく個人的な、不謹慎な話になるんだけれど、私がフェルナンド・メイレレスに期待していたのは、こういう映画ではまったくなかった。こんなのは誰か他の御偉い巨匠様(誰だ?じゃ、オリバー・ストーンとかでいいや)に撮らせておけばいいんじゃねーのか。というのが、正直な感想なのだ。

 だってさ、この映画、観てて全然楽しそうじゃないんだもの。『シティ・〜』なんて、あんなテーマなのにすげー楽しそうだったんだ。それはもう、へヴィな映画なんだから少し自重しろ、って言いたくなるくらい楽しそうな映像ばかりなの。あの映画から私が受け取ったメッセージは「ブラジルのスラムでは酷い事が起こっているんだ、みんな知ってくれ心に刻み込んでくれ」なんて高尚なものではなくて、「俺、メイレレス!映画撮るのが超大好きなんだぜ!」っていう強烈な自己主張だったわけで、その一点突破的なエネルギーに魅せられたからこそ次作のこれを手に取ってるわけですもん。

 映画で撃つべき社会悪なんて、きっといつの時代にもあるよ。こういう映画は年齢がいってから撮ったっていいじゃない。太宰は言ったよ。「小説なんて本来婦女子をだませればそれで大成功」だって。映画だってきっとそうだよ。私は気持ちよくだまされて踊りたいだけなんだ。例えばタランティーノやガイ・リッチーがセンセーションとして世界に飛び出した時みたいな、ポップでスタイリッシュでとことん無神経なエンターテイメントムービーこそ、私がメイレレスに求めたかった映画なのだよ。

 ……と思ったら、このおっさん50超えてんだな。今知りました。うーむむ。

(評価:★4)

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