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[コメント] 情婦(1957/米)

うわ(レビューは激しくネタバレをしておりますので未見の方は開かぬよう願います→)
林田乃丞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 シネスケ殿堂一位(2007年9月16日現在)なのに、悔しいかなノレなかった。後味悪い。うー。

 老いぼれ弁護士は自らの経験を過信して真実を見誤ったまま、引き受けなくてもよかったはずの仕事を引き受けた。それによって、ひとつの殺人事件に関わった人たちが本来より少しづつ不幸になった。『情婦』は、そういう話だ。

 人殺しの男は反省の機会を与えられずにこの世を去った。

 偽りの恋人だった女は、心底愛した男のために偽証の罪を犯し、さらには男を殺さなければならなくなった。

 本当の恋人だった女は、目の前で愛する男を殺された。

 これらの悲劇はあの弁護士が事件に足を突っ込まなければ起こらなかったはずの出来事だ。事件は状況証拠が揃っており、“並”の弁護士が弁護にあたっていれば人殺しには普通に有罪判決が下って、普通に収監されて、極刑が下されたとしても執行までの間に悔い改めることができたかもしれない。年増のデートリヒ嬢だって、そりゃひととき辛いだろうけれど、人を殺めて長い老後を棒に振ることはなかっただろう。

 弁護士は法廷の場で、目の前で殺人が起こったのを目の当たりにして、物知り顔で「これは処刑だ」と言った。馬鹿かと思った。お前のせいだろって。お前ら弁護士はこういうことが起こらないためにいるんだろって。法の番人が聞いて呆れるよ。

「彼女の弁護をするために……」とか言ってたけど、デートリヒ嬢からしたら、あいつに弁護なんかされたくないんじゃないだろうか。彼女は誰よりも、あの男が真実を見極める能力がないことを知っているのに。彼女が恋人にナイフを突き立てなければならなかったのは、あの弁護士の無能によるものなのに。

 しかも弁護士付きの看護婦に「水筒の中身を許す」なんていう台詞を吐かせて、そんな簡単なアレで悲劇の渦中にいる彼らから目を反らしてチャラにしようとするあたり、「虫けらどもが何だか殺し合っていますね」的な階級意識まで透けて見えた。冗談じゃないって。お前らも血の涙を流せよって。

 ビリー・ワイルダー、あなたは登場人物たちの痛みを自分のものとして感じているか。デートリヒ嬢の忸怩たる思いを背負っているか。真に救いを必要としている勇敢な弱者がまるで救われない物語は、見ていてつらいです。

(評価:★3)

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