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[コメント] 水のないプール(1982/日)

刺激的な事象を捉えることが必ずしも映画としての刺激には結びつかない、という好例。容易に暗喩に回収される「乾いたプール」と「挿し込まれる尖端(=注射器)」にも映像的詩情は見出せるが、行為をただポカンと眺めているようなカメラの無能さが退屈。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







クロロホルムが、一般に予測されるような、綿に浸して口許を押さえつける、といった使い方でなく注射針の侵入という形であるのは、立小便をしようとして情事を目撃するシーンとの連想も働くように、男根の暗喩なのだろう。画的に印象的な水無しプールも「心が乾いている」という暗喩に容易に回収されてしまう。

男は、女性の部屋に侵入し裸に剥くことで距離をゼロにしている筈が、男の着け続けるマスクによって「隔たり」が維持され続ける(それは睡眠と覚醒という隔たりを視覚化しているとも言える)のは面白いが、延々とただそれを撮り続けるのみに終始する能の無さには退屈を覚えざるを得ない。その「隔たり」が破られた時のドラマ(「被害者」である筈の女にとっても無意識の願望=夢のような体験であったという)も或る意味では予定調和的でさえある。女の家で、マスクを外して自らもクロロホルムを吸い込んでしまうことと、その前に自宅でマスクをしてクロロホルムを撒き、妻を眠らせることで、日常と非日常との逆転を試みる様はもっと見せ場として印象的であっても良さそうなものだが、妻子との日常が端から戯画的であったり、女があっさりと男の存在を受け入れてしまうことで、何の緊張感も生じず、テンションが上がりようもない。

原田芳雄演じる警備会社社長の、背後に日の丸と「天照大神」の文字を背負って、国家の庇護を約束する怪しげなキャラクター性あまりにあからさまにイデオロギー的で興醒めする。主人公が犯し続けている女と一緒に映画館にいた交際相手を主人公が殴り、その男が実は警官だったのだが、主人公の脅しを怖れて、女からの電話に「もう会いたくないと伝えてください」と同僚赤塚不二夫に頼むシーンは、権力への皮肉もさりげなくて良いのだが。

元交際女性宅に無断で侵入して逮捕された内田裕也「容疑者」の姿を知った今となってはこの映画の存在そのものも皮肉に映じてしまうのだが、髪を短く切った彼の姿はどこかARATAに似ているようにも見え、監督が彼を使って三島由紀夫の映画を撮るなど起用した理由の一端はここにあるのだろうかとも、ふと感じた。

(評価:★2)

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