主演のマーゴット・ロビーの芸達者ぶりも楽しめるが、本作はライアン・ゴスリングの健闘も光る。彼が演じたケンは、特にバービーワールドでのその役割、位置などは、実は現実社会での女性を表しているのではないかと思えた。

「人からよく思われたい」という人目を気にするような思いには、人によって強弱もあるだろう。ただそれをもっと一般化、普遍化して「自分が素敵でありたい」「自分がこうありたい」という思いは誰にでもあるのではないか。そしてその自己の思いと現実の自己とのギャップに苦しんだり悩んだりすることは誰にでもありえる話だと思う。

この意味で本作は近頃、話題になりつつあるジェンダーのことなどにとどまらないことをさりげなく提起しているようにも見えた。そういう意味では骨太の映画であると思う。

ただ本作はアメリカでの『オッペンハイマー』絡みでの騒動や、予告編などで、そういった側面はほとんど知られていないと思う。私も町山智浩氏の週刊誌のコラムを読まなかったら素通りしていたと思うよ。