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[コメント] あすなろ物語(1955/日)

堀川弘通の初監督作。師匠の黒澤明の脚色、という恵まれたデビューだ。主人公・鮎太の12歳、15歳、18歳の三つのエピソードで構成した一種のオムニバス。鮎太はリレーキャストで演じられており、三挿話とも、全て異なる出演者で作られている。井上靖の原作は既読でした。
ゑぎ

 それぞれの挿話にはヒロインがおり、それぞれに、テーマ曲が設定されている。つまり、岡田茉莉子は「カルメン」。根岸明美は「菩提樹」。そして久我美子が「故郷の空」(誰かさんと誰かさん)。例えば、岡田茉莉子は「カルメン」の歌を口笛で吹きながら登場する。

 一話目は「しろばんば」の設定ともかなり共通しており、本作の岡田茉莉子は「しろばんば」の芦川いづみ、同居しているお祖母さんの三好栄子は、同様に北林谷栄に該当するキャラクター。本作の岡田もツンツンぶりがよく合っている。また主人公・鮎太は少年時代の山内賢久保賢)。土蔵で並んで寝る際の岡田の横顔が美しい。

 二話目の根岸明美はとても明朗な性格で、分かりやすいが面白みは無いかもしれない。「菩提樹」の替え歌を歌いながら、鮎太と寺の堂内を駆けめぐるシーンの演出はなかなかいい。夜の浜辺で根岸が横に添い寝する場面でも、「菩提樹」の替え歌を歌う。この夜のシーンもいい出来。ただし、この替え歌は違和感が大きい。

 三話目は原作にない、ツルゲーネフ「初恋」の翻案。しかし、かなりの部分が黒澤の創作だ。鮎太は山内賢の実兄の、久保明にリレーする。下宿先のお嬢さんが久我美子。久我の母親に村瀬幸子。女中で浦辺粂子がおり、浦辺のつっけんどんな応対が楽しい。下宿人には高原駿雄小山田宗徳太刀川洋一金子信雄ら。金子はほとんど目立たない。久我は、彼女を崇拝する下宿人達の間で女王様のようにふるまっている、という部分はツルゲーネフ。ウブな久保・鮎太も当然ながら、篭絡される。部屋の窓、障子を締めきって、久我と久保とで秘密の話をする場面や、桜の花びらが散る中での、高原と久保の会話場面なんかで、撮影・照明の見事な仕事ぶりを見ることができる。

 黒澤らしい生真面目な書生っぽさも相まって、初々しい処女作だが、同時に女性の造型は少々気恥ずかしい純粋さも垣間見える(これも黒澤のものか)。

(評価:★3)

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