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[コメント] 青春神話(1992/台湾)

蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)の映画監督デビュー作。本作の時点でリー・カンションチェン・チャオロンのダブル主演だ。
ゑぎ

 雨の公衆電話ボックス。中に入ってきた高校生くらいの男子2人。電動ドリルを使って電話機の下の硬貨が貯まる箱を取り出す。この様子に部屋で勉強中の青年が繋がれる。窓の外は雨。床にゴキブリがおり、コンパスの針で刺す。一旦、机に留めるが、窓から捨てる。しばらくすると窓の向こうにゴキブリが。窓を叩いていると、ガラスが割れ、ケガをする。またも男子2人の場面。公衆電話の次は、ティッシュの自販機を壊しにかかる。この2人はアザーとアピン。ゴキブリの青年は予備校生でシャオカン。彼らがクロスカッティングで繋がれる。

 ルックスから、アザー(チェン・チャオロン)が一番カッコいいので、彼を主役として見てしまうのは良くない性向か。シャオカン(リー・カンション)は父母と3人暮らし。アザーの家は8階の部屋だ。エレベーターが必ず4階に停まってドアが開く。これを4回ぐらい反復する。雨の日は、キッチンの排水口から水が溢れて来る。こういう細部の描写も実に面白い。アザーは兄と二人暮らしのよう。親の存在感は無し。隣の部屋から男女(兄と恋人?)の声。聞きながらマスターベートするアザー。兄と寝ていた女の子の名はアクイ。8階から降りるエレベーターにアザーはアクイと乗り合わせる。アクイが、4階には幽霊がいるの?と聞く。これもいい。地上に降りると、アクイはバイクに乗せてって、と云う。道路事情に関して云うと、とてもオートバイの多い社会に見える。皆、ノーヘルだ。

 一方、シャオカンは、バイクをレッカー移動されてしまうのだが、タクシー運転手のお父さんに遭遇しタクシーに乗せてもらう。このシーンで、アザーとアクイの2人乗りバイクがタクシーを追い抜かして行く。こゝで初めてアザーとシャオカンが交錯する。交差点で前に進まないアザーのバイクに、クラクションを鳴らすタクシーのお父さん。イラついたアザーは、タクシーの左ミラーを割って逃げて行く。

 以降もアザー、アピン、アクイの3人及びシャオカンの無軌道な生活ぶりが綴られるが、良い場面をあげるとすると、アクイの勤めるローラースケート場にアザーとアピンがやってきた後、3人でかなり飲んだにもかからわずバイクを運転するシーン。こゝはいいショットが連続する。その後、酔って吐くアピン。アクイが工事現場に寝そべるのを金網フェンス越しのロングでとらえたショット。3人でホテルへ入り、アピンは泥酔しているアクイをレイプしたそうだが、アザーは止める。アザーのヒロイックな一面が強調される場面だ。

 また、シャオカンはアザーを見つけ、お父さんのタクシーに傷をつけたヤツだと認識したのだろう尾行をし始める。こゝからも、アザーとアピンによるゲームセンターのゲームの基盤泥棒場面など、2人の悪事をシャオカンは目撃する。アザーとアクイがホテルに入る際にもシャオカンは尾行しているが、シャオカンが、ホテルに駐めたアザーのバイクをメチャクチャにするシーンが凄い。こゝも冒頭と同じうような土砂降りだ。コンパスの針でタイヤをパンクさせ、シートはナイフで切り、鍵穴には接着剤を流し込む。フロントの防風カバーを割り、ボディにはAIDSと書く。翌朝、アザーがオートバイに気付くまでの運びが長いのは、イライラさせられたが、アザーがオートバイを見て怒っているのを、ホテルの部屋で見て、大はしゃぎするシャオカンの場面も、突き放した視点がいい。

 あるいは、バイクの修理代が必要ということもあって、アザーとアピンは盗んだゲームの基盤を売るために別のゲームセンターへ来るが、しかし、盗んだ店の系列店だったのだろう、ウチで盗まれたモノじゃないか?と問い詰められ、追いかけられる。アザーは逃げるが、アピンは殴られ、かなりの傷を負う。タクシーに乗ると運転手はシャオカンのお父さん、というのは出来すぎの展開だが、映画らしさだろう。彼らを見つめるカメラの眼差しは徹底して突き放した感触があり、虚しさが定着するが、同時に醒めた視点だけではない愛おしさも感じられる。ラストショットは街の風景。工事をしている道路の俯瞰から、曇天の空へティルトアップするショット。登場人物及び我々観客の複雑な感情を象徴するようなショットだ。

(評価:★4)

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