コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ワンダーウォール(1969/英)

冒頭は癌細胞か?顕微鏡を覗く研究者、という時点から窃視が描かれる映画だ。主人公はジャック・マッゴーラン。私はフォード『静かなる男』『月の出の脱走』、ポランスキー『袋小路』『吸血鬼』なんかの脇役で馴染みのある人だ。
ゑぎ

 研究者のマッゴーランが、自宅アパートの壁の穴を覗いて隣人の様子を盗み見することに夢中になってしまう、という映画なのだ。ことの顛末は、隣室がうるさくて、目覚まし時計を壁に投げると、蝶の標本に当たり、床に落ちる。すると、壁から光が出ている。覗くと、若い女性がいる。これが、ジェーン・バーキンだった、という展開。いちばん綺麗な頃のバーキンだろう。彼女が活動場所をフランス映画に移す直前の時期ということだ。また、幻惑的な光の造型も悪くない。蝶の標本から生きた蝶が飛び立っていく、という演出はマッゴーランの脳内イメージだろうか、この感覚は面白い。蝶のアニメの合成ショットまで見せられると、やり過ぎとは思ったが。

 マッゴーランは隣室を覗くだけに飽き足らず、盗聴までやり始める。壁紙をはがして、壁に何か所も穴を空け、天井も壊して盗聴しやすくする、といった具合にエスカレートしていくのだ。ついには屋根を伝って、バーキンの部屋に入る。すると、この部屋が凄い美術で、我々もマッゴーランと共に部分的には見ていた(窃視していた)のだが、あらためて全貌を見せられると驚かされるのだ。壁にハーロウとガルボの大きな写真が貼ってあったりする。

 と云うワケで、ほとんどバーキンの圧倒的な魅力とマッゴーランの顔芸を中心とするパントマイム的な芸だけで押し切る映画ではあるのだが、マッゴーランの部屋内の装飾と、バーキンの部屋のそれとの対比も見どころだ。マッゴーランの部屋の緑を基調とする美術、花の絵や、冠を被った女王と横たわる王の絵。あるいは、彼の研究室を出たところの緑のタイルや計器の美術も、この頃のイギリス映画らしい。全体的な感覚は、リチャード・レスターのビートルズ映画に近いものがある。本作の音楽もジョージ・ハリソンで、劇伴はハリソンが好き放題やっている感じがする。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。