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[コメント] 夢のチョコレート工場(1971/米)

どうしても比べたくなって、ティム・バートン版も見返したので、2作の違いを中心に感想を書く(ロアルド・ダールの原作の細部については、もう忘却の彼方なので、この際、原作との差異には触れません)。
ゑぎ

 まずは、本作が冬の映画ではない、ということに驚いた。冒頭の小学校から子供たちが走り出て来る場面からラストまで、雪のシーンが無い、というか冬でも夏でもない、春か秋だろう、過ごしやすそうな季節なのだ。対して『チャーリーとチョコレート工場』は(『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』も)冬の映画だった。それと、学校の存在、授業の描写があるかないか、というのも2作の違いとして指摘できる。

 チャーリーの家庭環境ということでは、いずれもかなりの貧乏暮らしであることが強調されるのだが、しかし、バートン版のボロ屋のセットの面白さが本作には全く無い、と云えるだろう。また、家族構成については、父親が不在であるということが大きな相違だ。寝たきりのような4人の祖父母と母親がチャーリーの家族であり、母親は洗濯屋で働いている描写がある。

 ウォンカ(本作の字幕ではワンカ)に関して云うと、ジーン・ワイルダーの造型は、ジョニー・デップに比べると、かなり常識人のように思えるものだ(もっとも、好青年過ぎるティモシー・シャラメに比べると、相当に酔狂だが)。彼は40分を過ぎた頃に登場するのだが、最初は杖をつき、跛行している(足をひきずっている)フリをする。しかし、前転して招待者たちに相対した際には、実に丁寧なあいさつをする。工場内見学ツアー中も、デップに比べると意地悪さ(ブラックさ)が大人しいと思った。

 あと、工場内の美術装置は、さすがに時代を感じさせるチープなものだ。例えば、チョコレートの川なんかでも、茶色の水にしか見えない。しかし、チープなセットの中でも、人物を動かす演出は、悪くないと思った。ふわふわドリンクのシーンでのチャーリーとお祖父さん−ジャック・アルバートソンの宙返り、金の卵を産むガチョウの場面における女の子の歌唱とダンス、あるいは、ワンカビジョンの白い部屋の中でのテレビ画面を絡めた演出。

 そして、こゝまで書かなかったが、本作のミュージカル映画としての魅力は大きなストロングポイントだと云えるだろう。バートン版でも、ウンパルンパの場面はミュージカルと云えるし、あれはあれで実に愉快な、ぶっ飛んだ演出だったけれど、本作の本格ミュージカルらしさも全く別の魅力があると思う。特にこゝでも子供たちの退場後に唄われるウンパルンパの歌(全部同じメロディで『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』でもヒュー・グラントが唄うメロディ)の面白さ。そして、ジーン・ワイルダーが唄う主題歌「ピュア・イマジネーション」(これも、約50年後にシャラメがカバーしている)のなんと美しい旋律。またこの歌を唄うワイルダーが、とても優しく寂しい表情をしているのがいいと思う。

#前半の日本のお菓子屋のショットで、ピーセンと草加せんべいの箱が見える。また、壁には『地の涯に生きるもの』(1960)の森繁久彌のポスターが貼ってある。

(評価:★3)

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