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[コメント] 帰らない日曜日(2021/英)

冒頭、主人公ジェーンとポールの独白が、それぞれオフで(画面外から)流れるが、こゝの、キャンター(駈歩)で駈ける馬の脚、及び尻尾のショットにうっとりする。
ゑぎ

 全体は主に三つの時代で構成されるが、メインのプロットは、1924年の「母の日」の場面で、これがタイトルにもなっている。この日、ニヴン家に勤めるメイドのジェーン−オデッサ・ヤングは、一日(半日)の自由時間が与えられ、隣家シェリンガム家の御曹司ポール−ジョシュ・オコナーと、束の間の逢瀬の時間を楽しむのだ。

 あとの二つの時代を先に書いておくと、一つは10年後ぐらいだろうか、作家になったジェーンと夫ドナルドとの場面。もう一つは、お婆さんになったジェーンの場面で、懐かしいグレンダ・ジャクソンが、リレーキャストでジェーンを演じている。尚、ジェーンは、どの時代でも赤色好きで、上着やコート、カーディガンは、ほとんど赤色を着ている、というところで一貫性がある。また、1924年のパートにおいても、母の日の情景だけでなく、ポールとの出会いの日や、ニヴン家の主人−コリン・ファースにお暇(辞職)を願う場面なんかが断片的に挿入される。かなり、時間は自由に繋がれていると感じられる。明らかに回想場面と分かる繋ぎもあるが、恣意的に時間を切り取っているように思える部分も多いのだ。それと、唐突なアップショットの挿入、例えば自転車に乗るジェーンの髪の毛のアップ、赤い上着にだけ寄ったショットなんかが挿入される演出や、彼女のイメージショット−結婚式の新郎新婦のショットなどの挿入も、自由な演出の感覚が良く出ている。

 さて、母の日のポールとの逢瀬における濡れ場の場面は、案外淡泊だが、かなり長い時間にわたって、二人の全裸のシーンが続く。特に、喜ばしいことに、ポールが退場してしまった後も、ジェーンは、ずっとポールの邸の中を全裸で歩き回るのだ。壁の肖像画。蘭の花。図書室。本と煙草。こゝも美しい画面が溢れるが、時間の使い方は、少々かったるく感じてしまった(ワタクシ的には、いまいち、オデッサ・ヤングの肢体に魅力を感じないからかもしれない)。

 もう一つ重要なのは、本作の「母の日」の場面では、第一次大戦の傷跡が生々しく描かれていることだ。それは特に、ファースの妻(ジェーンにとって奥様)であるオリヴィア・コールマンによって表現される。いつも沈んでいる彼女が、突然、切れて泣き出す場面。そして、彼女の装身具をジェーンに外させながら、孤児院の前に捨てられていたという境遇のジェーンに、それがあなたの強みだと話す場面。コールマンは出番は少ないが、彼女がこの映画を引き締めていると思う。

(評価:★3)

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