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[コメント] 52ヘルツのクジラたち(2024/日)

食器の音。溶明すると、トレー上のコップに麦茶を注ぐショット。3人分。まず自分の分を飲む杉咲花。続いて、海の見える展望台のようなデッキが現れる。
ゑぎ

 このデッキが古い民家にあるというのが驚きなのだが、この装置が全編に亘って何度も登場し、良い画面を作る。麦茶は建物を修繕中の2人の大工さん(?)のためのもの。そのうちの一人、金子大地が、杉咲のお祖母さんの話をする。

 埠頭(突堤)で、サントリーのプレミアム・モルツ。イヤホンで音楽(?)を聞いていると、唐突に志尊淳が出現する。雨。雨の中、倒れる杉咲。子供がビニール傘を渡す。子供には虐待の痕。この出会いの場面で、杉咲の腹部の傷も見せる。また、杉咲の子供時代の短い回想が入る。雨の玄関前から、家に入れられ、服を脱ぐとアザだらけ。お母さん−真飛聖は「大好きよ、ずっと離れないでね」みたいに云うが、この類いの科白は、この後も繰り返される。宮沢氷魚も杉咲に云うし、杉咲も子供に云うのだ。人の言葉の真実性(あるいは思いと行動の整合)について考えさせられる。

 本作も杉咲がほゞ出ずっぱりの女優映画だ。彼女が画面に映らないシーンは、ほんの僅かしかない。勿論、いつものように圧倒的なプレゼンスでプロットを牽引する。しかし、私はちょっと泣き過ぎ(泣かせ過ぎ)に感じる。

 いや、私の感覚だと、杉咲以上に、真飛、宮沢、志尊による絶叫号泣演技はちょっと酷いと思う。勿論、演出家のディレクションが酷いのだ。。自室はまだしも、診察室とホテルのロビーでやるのはホント、勘弁して欲しいと思いながら見た。脇役についてもう少し書くいておくと、杉咲の友人役−小野花梨のテンションの高さもイヤ。それと、西野七瀬の悪女ぶりは、逆に、もっとぶっ飛んだ造型にして欲しかったと思う。このあたり含めて、全部演出家の設計が私には合わないと感じた。

 そんな中で、終盤になって登場する倍賞美津子が、出てきたと思うと、いきなりプロットを仕切ってしまう、という意外性はとても良いと思った。これは本作の美点だろう。また、クジラを画面で登場させるのも、予想していなかったので、驚きがあった。これもできれば、もっとスペクタキュラーな造型であれば、なお良かったが。あと、「魂のつがい」という言葉が、良い言葉みたいに云われる場面があるけれど、私にはピンと来なかった。「つがい」が生物学的性をイメージさせるからこそ「魂の」という言葉が付加されているのだろうが、語呂はイマイチと思う。

(評価:★3)

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