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[コメント] 最後の一人 潜航艇哀話(1930/米)

音楽なしのタイトルクレジット。開巻は上海の歓楽街のシーン。街や酒場の喧騒は効果音が入っているが、科白には音声が無く、サイレントらしいインタータイトルが出る。
ゑぎ

 なので、あゝサイレントかと思っていたら、女性歌手の歌唱や、水兵がピアノを弾きながら唄う音声は、口の動きに合っている、トーキーなのだ。こんな調子で、最後まで、半サイレント、半トーキーといった作品だ。

 冒頭は、米国潜水艦S13の乗組員が飲み屋で騒いでいる場面だが、ケネス・マッケンナがリーダーのように見える。あとはフォード映画ではお馴染みの若いウォーレン・ハイマーや、長老的な扱いのJ・ファレル・マクドナルドが目立っている。マッケンナは、バークという名前で呼ばれているが、英国の将校が仲間に、彼はクォーターメインだ、と云う。軍法会議で有罪になった英国軍の元船長だと。この謎の提示はラストまで作劇的テーマだ。しかし、この上海の飲み屋の美術装置はいい。とても奥行きのある細長いフロアで、長いカウンターが面白い美術だ。また、港に戻る通り道の場面もいい造型で、道路横に娼館があり、水兵たちが娼婦にちょっかいを出す。

 米潜水艦のシーンは、艦上にいるフランク・アルバートソンのショットから。彼は新任の少尉。役名は『最敬礼』(1929)の時の彼と同じなので、同一人物なのだ。つまり『最敬礼』では、海軍兵学校(アナポリス)で学んでいたアルバートソンが、本作では尉官として潜水艦に着任した、という設定だ。そして、この潜水艦が海難事故(他の船舶との衝突?)にあい、沈没し、簡単には脱出できなくなってしまう。さらに船長が死んだので、経験の浅いアルバートソン少尉が指揮官になる、という展開だ。もっとも、『最敬礼』でも一脇役だったが(目立っていたので記憶には残る脇役だった)、本作でも彼は脇役と云うべきだろう。やはり主役は、マッケンナなのだ。

 さて、邦題の意味は、ハッチを開けて、一人ずつ船外に脱出させる際、ハッチのある壁のスイッチを内側から押す必要があり、最後に残った一人は、自力では脱出できない、という状況を指している。最後から3番目がマクドナルドで、彼が行く際に、残ったマッケンナとアルバートソンに、どちらかとは、上で会えるな、と云う。どちらが最後の一人になるのか。さらに、マッケンナの名前(バークなのかクォーターメインなのか)も絡めて収束させる作劇は、なかなかよく出来ていると思う。とは云え、大部分が狭い潜水艦の中を舞台とする映画であり、フォードらしいパースペクティブな画面が乏しいのは、寂しく感じられる。冒頭の上海のシーンが、全編で、最も特筆すべき画面造型だと思う。

#ラスト近く、潜水士と交信する艦上の通信員はジョン・ウェインだ。横顔だけだが、はっきり分かる。

(評価:★3)

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