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[コメント] オペレーション・ミンスミート ーナチを欺いた死体ー(2021/英=米)

手紙の映画。死体の映画でもある(死体は邦題で明記されてしまっているが)。これら映画的な道具立てがとても上手く演出された、ジョン・マッデンらしい見応えのある映画だと感じた。
ゑぎ

 また、スペインのシーン等の例外を除いて、ほどんど暗い画面ばかりが続く映画だ。こゝまでローキーの画面で徹底している作品は、なかなか無いのではないか。ローキーファンにはたまらない映画だと云えるだろう。映画というメディアでしかできない画面的な特性の一つはローキーなのだ。

 主要な登場人物は案外と限られていて、コリン・ファースは諜報部の少佐。マシュー・マクファディンは空軍大尉。そこに諜報員時代のイアン・フレミング役、ジョニー・フリンが加わって作戦を企画する。ちなみに、本作のフレミングは、語りべ的な役割で、冒頭や終盤ではタイプを打ちながら、文学趣味のナレーションを読み上げるのだが、劇中は思ったほどは活躍しない役だ。そしてこゝに、マクファディンの職場から、助手のような任務で、ケリー・マクドナルドが合流し、マクドナルドをめぐるマクファディンとファースという二人の英国軍人の話になっていく(さらに付け加えるなら、マクドナルドと米軍軍曹の挿話もある)。

 一番最初に手紙の映画、と書いたが、死体に持たせる手紙は2通創作される。そのうちの一つ、ケリー・マクドナルドが、死体の恋人パムに成り切って書いたラブレター、これを皆の前で読み上げる場面が、本作の白眉かも知れない。尚、本作が、ことさらに手紙の映画だと感じるのは、死体が所持する2通の手紙だけでなく、コリン・ファースとその妻(ユダヤ系なので子供を連れて米国へ逃れている)との関係も、手紙の行き来、あるいは執筆シーンで示されているからだ。

 あと、全体に暗く、重い空気が支配する作品だが、死体を笑顔にし、写真を撮る場面だとか、イギリスらしいブラックユーモアで死体を機能させる。作戦遂行の準備がほとんど完了しかけたタイミングで、死体の姉が現れ、皆で説得するシーンも、真面目な場面だが面白い。というワケで、私は、この死体が潜水艦から海に投入されるまでが、特に面白く感じた。死体がスペインに漂着してからは、ある程度、事実なのだろうが、嘘っぽい演出が続くように思った。

 尚、主要登場人物として上には書かなかったが、作戦の責任者でファースたちのボスにあたる、冷徹な人物ゴドフリー(Mとも呼ばれる)を演じる、ジェイソン・アイザックスも流石の存在感。あと、マシュー・マクファディンが、英国空軍将校で、いつも軍服姿ということもあり、『博士の異常な愛情』のピーター・セラーズ(マンドレイク大佐役)によく似ていると、ずっと思いながら見た。

#備忘

・冒頭、ファースが子供に読み聞かせる小説はジョン・バカン「三十九階段」。映画館でマクファディンは、マクドナルドに『戦慄のスパイ網』の話をする。

(評価:★3)

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