コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 今夜、世界からこの恋が消えても(2022/日)

これは佳編。福本莉子の目のアップ。朝のまだ暗い時間に目覚める。壁の貼り紙。朝早く起きるのには理由があるだろう。膨大な日記を読まなくてはならないのだ。
ゑぎ

 舞台は湘南。海岸をジョギングする後ろ姿の女性として古川琴音が登場する。彼女も良い登場シーンが与えられている。古川が、福本の手書きの日記を読むことで、物語が始まる。この構成には最初ちょっと違和感を覚えた。以降、福本及び、道枝駿佑のモノローグでプロットが補足される場面もあり、少々冗長にも思う。しかし、福本が主人公で、その相手役として道枝がおり、古川は脇役、という位置づけには違いないが、古川は、終盤はある意味主人公のようにプロットを牽引しており、終わってみれば、三人の役柄の周到さがよく感じられるのだ。

 また、題材が持つ内在的な問題、すなわち、序盤の展開で既に結末が予想でき、かつ、終盤で予想を覆すような、どんでん返しも盛り込みようがない、という弱点を持つプロット構成だと思う。なので、カタルシスの質量には限界があるのだが、それでも、繊細、丁寧な画面作りの連続で、ずっと魅了されながら見た。

 というワケで、特記すべき事柄を上げておくと、まずは、福本と道枝の素直なキャラ造型にとても好感が持てる、という点。福本もその魅力が十分引き出されていると思ったが、特筆すべきは道枝の可愛らしさで、ルックスも性格もなんていい子なんだろうと思い続けながら見た。

 画面造型で気に入ったのは、例えば、福本と道枝が、古川の家を訪れるシーンで、皆で夕陽を見る場面。先に屋内の福本だけのショットで、窓からの光で夕陽を予感させるショットがあるのだ。これは上手い処理だ。あるいは、花火大会のシーン。初めて手を繋ぐ二人の間から打ち上げ花火が上がるショットには参った。こういうのって、相当こだわらないと設計できないんじゃないだろうか。いやこの花火大会の場面はなかなかタマラナイ演出なのだ。

 あと、道枝の家族関係、父親の萩原聖人と姉の松本穂香の描き方については、前半は、詰め込み過ぎの気がしていて、特に作家としての萩原の設定は不要じゃないかと思いながら見ていたのだが、まあギリギリの線でイヤらしくなり過ぎる前で止まってくれてホッとする。そして姉の松本が、手書き日記のデジタル化プロジェクトのパンチャーになる、というのも、最初はどうかと思ったが、いや、結果的には、これは泣かせる展開に寄与していると感じられた。デジタル化プロジェクトを牽引するのが古川で、上にも書いたが、終盤古川がフォーカスされる、という構成は本作を懐深いと感じさせる、良い点だと思う。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)ひゅうちゃん[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。